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薬局の本棚🔹アルコール依存症(2)

薬局で紹介したい、アルコール依存症に関する本その2は、パンクロッカーで芥川賞作家、町田康さんの随筆です。

『しらふで生きる ―大酒飲みの決断』 町田康


タイトルはおそらく大江健三郎の小説に出てくるセリフから。『万延元年のフットボール』だったか…精神的に追い詰められ、飲んだくれて現実逃避している主人公が、「人生は〈しらふ〉でやっていかなくてはならない」と言われるシーンがあった。

町田康さんも、夕方になると酒を飲むのが三十年来の習慣。そのために一日がある、という状態だったのを、ふと思い立って、やめることにしたと。
なぜそんなことをしているのか、酒をやめるとか狂気の沙汰では?!と自分に激しくツッコミを入れつつ、酒をやめるにはどうすればいいかを考えながら、いつもの〈町田節〉で語りかけてくる。

・なぜ酒をやめるのか
・どうやって酒をやめるか
・酒をやめたらどうなるか

この三つの論が少しずつ展開され、読者はぐるぐる振り回されながら怒涛のラストに向かう。そのあたりはぜひ読んで体験していただくとして。

実際にどうやって断酒を続けるのか?というのがやはり気になるところ。
酒をやめるという考えに至っても、飲酒欲求はそうそう抑えられるものではなく… 飲酒禁止の宗教に入る(オイオイ…)・禁酒会に入る・だれかに拘束してもらう(いったい誰に??)・嫌酒薬を飲む・周囲に断酒宣言する・などの案が出てくるがどれも否定。
そして、「認識を改める」という話に。

ここで、「え?結局、精神論なん?」と思わないで読んでほしい。これは「精神論」なんて生易しいものじゃなく、もう人生、生き方そのものの話よ。なんなら哲学と言ってもいい。

酒をやめたと言いしばしば酒徒から受ける問いに「それで人生寂しくないですか?」というのがあるがそんなことはない。なぜなら、人生はもともと寂しいものであるからである。

なかなか、突き放してきますねえ。
だからといって、楽しみや幸福がないわけではなく、むしろそれらを感じることができるようになった、という話。ほかにもいろいろ良いこと(町田さん曰く、利得)もあったが、利得のために酒をやめたわけではなく、自分の場合はそうであった、とのこと。

最後に。
解説で、ライターの宮崎智之さんが書いているように〈しらふで生きる〉とは、「常に正気でい続けることの狂気」を引き受けることにほかならないのではないか、と思う。
酒に限らずわれわれは何かに酔い、ものごとを都合のいいように見たり見なかったりしているのではないか。〈しらふ〉はキツい。でもアホな自分を肯定しながらなんとかやっていこう。


※アルコール依存症の治療について、詳しく知りたい方、医療機関を探している方は、ぜひこちらをどうぞ。


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