関西弁のアタックとピッチについて

オイラは関西人以外の俳優さんが訓練して関西弁を話すドラマがムチャクチャ苦手なのだが、ネフリの『舞子さんのまかないさん』は世界レベルの是枝さんと小山愛子さんの素晴らしい原作のタッグによる作品ということで楽しく鑑賞している。
ネイティブ以外の人が話す関西弁はどんなにイントネーションが完璧でもすぐわかる、というのは何回か書いた。
まずネイティヴ以外の日本人が関西弁を話す場合、そのイントネーションが注目される。イントネーションが違うなぁというわけである。しかしこれは言い替えればイントネーション「だけ」修正すれば、それっぽくなるということである。中国語やベトナム語で言う声調だけ模倣すればよいのだ。
インド・ヨーロッパ語族や中国語のように母音や子音が何種類もあって、関西とそれ以外では、違う母音や子音を習得するとなれば、これは大変だ。(東北や沖縄になってくると母音や子音も違うので、それに比べると関西弁はイントネーションだけ反復練習すれば似せやすいとも言える)
なので映画やドラマで関西弁を話す関西弁非ネイティヴの俳優さんは、おそらくすさまじい訓練をしているのだと思う。だが実際はネイティヴの人の関西弁は違う。
この前同じくネフリで『ぐでたま』を見たのだが、この中に濃いめの関西弁をしゃべるぐでぐでしたたまごが出てきた。これはもう一瞬でネイティヴや!とわかったのである。実際そのたまごの声を演じていたのは関西のお笑い芸人「霜降り明星」の粗品さんであった。
これはもちろんネイティヴならではのなめらかさもあるが、発声、すなわち周波数が明らかに違うのである。声質と言ってもいい。おそらく関西弁の声質というのがあるのだと思う。
なのでドラマなどでもイントネーションだけでなく関西弁ぽい声質を真似る、とより似てくるのではないかと思う。(すでにやっているかもしれないが)

さて本題はここからだ。声質に加え、ネイティヴの人の関西弁は発音のアタックとピッチの捉え方が違うということを最近よく感じるようになった。関西の人はアタックが鋭い。厳密にいうと声を出そうと脳が思ってから実際に口から発声するまでの速さか速い。ゆっくりとしたしゃべり方でも立ち上がりにスピード感があるのだ。
これは外国語と同じで、幼い頃からその言語を浴びることで完全に身体化されているということだ。なので、身体化されていない非ネイティヴの人が真似しようとした場合「え~と大阪弁のイントネーションってこうだよな」と一瞬にも満たない瞬時ではあるが左脳を経由するのだ。それがどうしてもネイティヴと非ネイティヴのスピード感の差にあらわれてしまう。
ただこれは英語がだんだんスラスラ出てくるようになる、みたいな感じでずっと関西の人をしゃべり続けているとどんどん反応が速くなるのではないかと思う。
そして関西弁は、文章全体の声調、イントネーションもだが、発音したその瞬間にピッチが上に向かう特性があると思う。単語単位でも文章単位でも常に上へ上へと向かって音像がそのまま空中に消えていくベクトルがあるのだ。標準語(東京語)はその逆で下へ下へというか、地上に落ち着くしゃべり方だと思う。

『舞子さんのまかないさん』に話しをもどすと、京都のドラマなのになぜ関西出身の俳優ではないのかというと、もちろんまずは監督のチョイスだから、ということだと思う。そして今回のキャストの中に関西出身の人がいるかはわからないのだが、おそらく1人か2人以外ほぼ全員関西以外の出身だと思う。そこをもう少し深読みしたい。この関西出身の俳優がほとんどいないという状況で京都弁?のドラマを展開させるのはなぜなのか?の想像をまとめてみたい。

1.このドラマのように実際の舞妓も、京都以外のところから来ている人が多く、京都に住むようになってから京都弁を話すようになる。すなわち慣れない京都弁の方がリアリティがある。
2.半分がネイティブ関西、半分が非ネイティヴ関西の俳優とかだったりすると発音の違いが顕著すぎてしまう。
3.ネイティヴ関西の俳優がガチで話した場合、関西以外の視聴者が聴きとれない。
4.関西出身の俳優だと、今度は、これは大阪や兵庫や滋賀の言葉で京都ちゃう、という京都ネイティヴの人からの洛中、洛外的ツッコミが入るかもしれない。
5.ネフリで是枝監督の作品だからガチで世界向けなので、関西弁がちゃんとしてるかどうかは関係ない。

とこれだけの理由を想像すると、なんか変な関西弁だなぁと思いつつきもちよくドラマを観れるのである。

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