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『アメリカン・ユートピア』を観ました

映画レビューもたまってきてしまった。本来なら「食」に特化した作品だけを観ていく予定だったが、映画ってのは予告編やロビーのパンフを目にしてしまうと次々に観たくなる罠が仕込まれているようだ。

デヴィッド・バーン。前衛的パンク?バンド「トーキング・ヘッズ」の首謀者にして、私が好きなアーティストの中でもっとも肌が白い男性だ。35年来の真っ黒かぶれゲロッパ!ババアの私がいたいけなガールだった中学生時分、ラジオから流れるTom Tom Club(トーキング・ヘッズの内部PJ)の『Wordy Rappinghood』に髪の毛が逆立つような衝撃を受け、大元はどんな曲を作っているんじゃ?と掘っていくとまず『Psycho Killer』にぶち当たり、「すぁいこきru~あ~ぁ~」とわざとヨロヨロに震わせた神経質なボーカルで歌う、視線が明後日の方向を向いているような若干危なげなオヤジを目の当たりにするのだった。

時は流れ。今週は別の作品を見に行くはずが時間が合わず、アプリで予約を入れると、「禍」の拘束力も弱体してきたのか意外に席が埋まっている!この館に通い半年、私の選ぶ作品はいつもなら10人入れば良い方、くらいの売れ行きだったのにここまで客が多いのは初めてでまずはそこに面食らった。それともこのオヤジは意外に音楽シーンに影響力の及ぼしている人なのを、私が知らないだけなのだろうか。もっとも、一時期制作をともにしていたプロデューサー、ブライアン・イーノは「Windows95」の起動音を作った人として有名で、それしか知らない。ごめんなさい。

作品の話に戻るが、これは2019年のブロードウェイ有観客ライブの映像をあのスパイク・リー監督の下ディレクションし、演奏だけでなく舞台のオペレーション(これには彼のルーツのスコットランドの伝統的舞踊のフォーメーションも影響していると勝手に解釈した。マーチング好きには必見です!)やトーク部分をも際立たせた一つのドキュメンタリーとして成立する作品である。2019年のアメリカと言えば前政権の支配まっただ中、その政治的潮流に向けてのレジスタンスにもあふれた内容であり、ニヤリとしたりよそ者ニホンジンの私ですら怒りを覚えたりであった。バーンじたいもスコットランド系移民で、今回率いたバンドメンバーも出身地とともに紹介される。こういう思想的なことをさらりと表現できるお国の懐の深さか、バーンの前衛精神のたまものなのか。それにしても相変わらず、歌詞の意味はとっちらかってるな。

本国ではテレビ局の配信でしか見られなかったそうだが、スクリーンでこの実験的な、しかも音楽ライブとしても舞台劇としても完成度の高い作品が観られ非常に爽快な気分を味わえた。何度でもこの作品に浸りたいので、パンフレット、サントラ盤も購入決定である。

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