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森髙 まき / moritaka maki


編集者として活動している同じ年齢の女の子がいるらしい。その言葉を聞いてから、彼女に会ってみたいと思った。それから一年以上が経ち、雪深い冬の季節に、ようやく彼女が暮らしている洞爺を訪れることができた。

北海道に行ったら洞爺には行くべきだよ。と、身の回りのアーティストや知人から伺っていたこともあり、洞爺への関心はとても高かった。洞爺湖の白鳥に会えるかもしれない。胸をドキドキさせながら洞爺に到着すると、暮れゆく中で、夕焼け色を水面に映した神秘的な洞爺湖が迎えてくれた。

「私の家からも洞爺湖が眺められるの。綺麗だよね」。

森髙まき(以降たまちゃんと呼びます)は、洞爺湖にある1万坪の土地の築100年の家で、パートナーと猫2匹と暮らしながら、編集者兼カメラマンとして活動している。

もともとファッションや音楽の雑誌を読むことが好きで、街の本屋に足を運んでは、一度に10冊近くの雑誌を購入していたというたまちゃん。当時から街の個人書店から感じるローカルな雰囲気が好きだったという。本に関する仕事を夢に抱いたのは中学2年生の時だった。

「学期末の試験勉強のために雑誌を読むことをやめていたんだけれど、ふと手にしてページをめくったら胸がドキドキして。その時に雑誌の仕事がしたいって思ったんだよね」。

メディアの勉強ができる学科へ進学したり、出版社のアルバイトで実務的な経験を積みながら過ごしたり。コツコツと努力を重ねた。その後、地元の長崎県を離れて、東京でインターンや就職活動をしながら生活をしていた。しかし、半年経って東京という場所が自分に馴染まないと感じたという。その時に思い出したのが北海道だった。

「学生時代からアルバイトや旅行で北海道へ訪れる度に、この土地の自然豊かな景観や、穏やかな時間に心を満たされるような気持ちになったんだ。だからこそ、好きな場所で、やりたい仕事ができたらいいなと思って」。

北海道の出版社〈northern style スロウ〉に入社して、帯広へと移住した。自分が良いと思ったことを能動的に取材できることが仕事の魅力だった。最初は取材と執筆だけだったが、その後、撮影も自分自身で行うようになり、編集の仕事を通して様々な経験を得ることに。北海道で農業をしている人、お店を営んでいる人、モノをつくっている人。取材を行う度に様々な人と出会えることが喜びだった。そして、同じように北海道の自然にも惹かれていた。

「北海道は広大な土地だから、一箇所の取材先に行くにも片道4時間くらいかかったりするの。でも、自分と景色だけの世界がその行き道に成り立っていて、だからこそ、私は取材に行くまでの時間も好きだったな。まるで北海道の自然に試されているような、拒まれているような感覚があって、そこに美しさを感じていたよ」。

取材からの帰り道にも、自分のなかで取材の内容を咀嚼するための大切な役割があるという。自然が豊かな北海道ならではの時間軸が生み出しているものなのだと彼女は感じていた。

「ある時、仕事で洞爺に来て、そこで取材した人たちがとても優しくて、あたたかくて、みなさん自分自身を生きていると感じたんだ。凪いでいる洞爺湖の様子も美しくて、自分の忙しない日常に穏やかな時間を与えてもらったような気がしたんだよね。私もこの人たちのように日々を丁寧に生きてみたいって思ったよ」。

毎日を大切に暮らしていくなら洞爺が良い。その想いを形にするべく、職場を辞めて〈たまたま舎〉として独立。洞爺のアパートを借りて帯広との2拠点生活を送りながら、パートナーと暮らせる家を探し始めた。自分のペースで自分らしく編集をしていくための最初の一歩だった。

「〈たまたま舎〉のコンセプトは、たまたまのご縁を繋げるというものなんだ。私自身が、これまで出会った人や本などのたまたまの縁が自分をここまで連れてきてくれたと実感していて。これからもそのような縁の繋がりから芽生えるものが楽しみだし、自分もそのようなたまたまを作れる人になれたらなと思っているよ」。

〈たまたま舎〉では取材、撮影、編集をすべて一人で行う。2022年には、美術家の奈良美智さんの洞爺での滞在制作やその背景を一冊にまとめた〈Summer Records –奈良さんが洞爺で過ごした夏の記憶-〉を発行した。取材中は、制作に真剣な奈良さんが纏う緊張感を感じながらも、自分の気配を消して撮影などができたことが良かったという。洞爺の人たちと協力しながら1ページ1ページを作り上げた時間も、楽しい思い出と豊かな経験につながった。

他にもお店のパンフレットを制作したり、企業の映像を撮影して編集したり、〈たまたま舎〉での活動は多岐にわたる。そして、その活動は編集だけにとどまらず、2023年5月には、洞爺に新しく〈たまたま書店〉をオープンさせた。

続きは、以下のサイトよりご覧いただけます。
Leben「ある日の栞」vol.08 / 森髙 まき


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Lebenはドイツ語で生活を意味します。正解のない様々な暮らしを取材しています。

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