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萩原 睦 / hagiwara mutsumi


「文香さんに写真を撮っていただきたくて」。

その嬉しい一言が彼女との出会いのはじまりだった。パート・ド・ヴェールという手法でガラス作品を手掛ける彼女からの依頼は、作品展のためのDM用の写真を撮影してほしいというものだった。普段は東京で暮らしている睦ちゃん(以降むっちゃんと呼びます)。以前、四国を旅行した時に瀬戸内海の穏やかさに惹かれたことと、私の淡い写真から自身のガラス作品との共鳴を感じて問い合わせてくれたのだった。

オンラインでの打ち合わせ後、1月中旬に岡山でむっちゃんと待ち合わせ。東京のお土産を携えて柔らかい笑顔で現れた彼女は、初めての岡山の土地を瞳にうつして、とても楽しそうだった。

「東京と違って、岡山はとても穏やかな時間が流れている気がします」。

25歳の彼女は現在、東京藝術大学の大学院に在籍している。学部生の頃よりガラスを通して自身の作品の表現を模索してきた。普段は東京の〈硝子企画舎〉で制作をしている。

彼女のガラスとしての表現のはじまりには、風景との出会いがあった。彼女が高校3年生の頃、フィルムカメラを趣味としている友人たちと二子玉川で写真を撮っていた時、夕方になり、その夕焼け空に釘付けになったという。

「フィルムも使い果たして、みんなも帰ろうっていう雰囲気でした。周りの道行く人たちもみんなスマホを見ていたり、下を向いて歩いていたりして。けれど私は、今こんなにも美しい景色が広がっているのに、どうしてみんな見ていないのって思いながら、高まる気持ちでその夕焼け空を眺めていました」。

幼い頃から、家族で北海道の美瑛や富良野、長野県の八ヶ岳などに行っていたこともあり、自然の景色に対していつも心がわくわくしていたこともあった。また、写真家の岩倉しおりさんの撮る景色にも惹かれて、自分の好きな風景や世界観に気づくようになったという。

この美しい風景を何か形にして残したい。その気持ちは、女子美術大学に進学後、染色や織り、陶芸などの工芸を学んでいくなかで硝子という素材に出会ったことで形へとなっていく。吹きガラスや、型にガラスの粉を詰め込んで電気窯で溶かして作るパート・ド・ヴェールという伝統的な技法を生かして、自分の表現の可能性に挑戦したいと考えた。

「パート・ド・ヴェールは、自分の表現したい色と形が正確に出ているかどうか一発勝負な世界です。手作業で石膏の型を作るから、ひとつの型はひとつしか作れないし、色も透明感のある淡い水色から深い青色など、色のグラデーションが異なってきます。何より、窯で焼いている間はその色と形が分からず、石膏を割ることではじめてガラスの形や色味を目にすることができるので、自分の出したい色が出ているかいつも緊張します」。

工程としてはまず、一週間かけて型作りを行う。次に、その型にガラスの粉を詰め込んで三日間かけて電気窯で焼く。最後に、一週間かけて加工を行うことで、ようやく自身の表現したい作品が出来上がるという。作品によっては器を4日から2周間ほど窯に入れていることもある。時間をかけてガラスをゆっくり冷ます必要があるため、時間調整ができる電気窯は彼女にとって大切な相棒である。

「窯から出す時が一番楽しいですね!自分のイメージしていた色と出会えると、とても嬉しいです。色ひとつとっても様々な種類があって、焼いた温度によって青色が深くなったり、赤色が消えたり、色の濃度が変わる様子がとても面白いです」。

作品づくりにおいて一番大切にしているのは、色のイメージ。透明なガラスと色のガラスを組み合わせることで、半透明な表情が生まれる。それぞれの割合によって、0.1グラムの違いで色の表情が変わってしまうほど繊細な作業は、まるで理科の実験をしているような感覚だという。自分の出したい色に近づけるために、昨年、ガラスの色のテストピースを300種類も作成したむっちゃん。一番良い組み合わせと、自分の記憶の中の色とを組み合わせながら、色の割合を考える時が作品づくりのポイントでもある。

続きは、以下のサイトよりご覧いただけます。
Leben「ある日の栞」vol.07 / 萩原 睦


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Lebenはドイツ語で生活を意味します。正解のない様々な暮らしを取材しています。

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