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①ジェーン・オースティン作品に見る、摂政時代のクリスマス[帰省シーズン]

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摂政時代のクリスマスとは、クリスマスイブないし25日の日没から、12日後の1月5日ないし6日まで続くとされていました。
(12月6日の聖ニコラスの日からがクリスマスという考え方もあります )

《補足》
何故12日後なのかというと、東方の三賢者がイエス誕生を告げる星を見つけてから彼の元に辿り着くまで12日かかったことに由来するようです。

なので、オースティンの作中で使われる「クリスマス」という言葉は  12月25日ではなく「クリスマス期間」という意味合いで使われていると考えて良いと思います。

クリスマスの12日間(Twelve days of Christmas )
という歌の歌詞の内容を描いたイラスト。
12日間恋人が様々な贈り物をくれるという内容。
Xavier Romero-Frias • CC BY-SA 3.0

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そしてこのクリスマス期間と言えば、離れて暮らす親戚や家族が集まる時期だったよう。
そのことを示す描写がいくつも出てきます。
『高慢と偏見』のワンシーンもそのひとつ↓
(なお、文中の「ロングボーン」というのは屋敷の名前です )

On the following Monday, Mrs. Bennet had the pleasure of receiving her brother and his wife, who came, as usual, to spend the Christmas at Longbourn.

Pride and Prejudice
chapter xxv

二日後の月曜日に、ベネット夫人の弟夫婦がロンドンからやってきた。彼らは毎年クリスマスを、ロングボーンで過ごすことになっている。

『高慢と偏見(上)』ジェイン・オースティン
中野康司 訳
ちくま文庫(2003年)
ベネット夫人の弟夫婦(ガーディナー夫妻)
が持ってきた贈り物を開けるシーン。
by C.E. Brock / Public domain

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もうひとつ、少し長いですが『エマ』からも引用してみましょう。

こちらは、主人公のエマが ロンドンに住む姉と家族がクリスマスに帰省するまでの時間を楽しみにする一方、クリスマス前の10月11月の退屈さを表現したシーンです。

エマは田舎で神経質な父と二人暮らしだった為,姉家族に会えるクリスマスを心待ちにしていました。

Her sister, though comparatively but little removed by matrimony, being settled in London, only sixteen miles off, was much beyond her daily reach; and many a long October and November evening must be struggled through at Hartfield, before Christmas brought the next visit from Isabella and her husband, and their little children, to fill the house, and give her pleasant society again.

Emma chapter v

エマの姉は、結婚して落ち着いた先が十六マイル離れたロンドンだから、比較的離れているとはいえ大した距離ではない。とはいえ毎日行ける距離でもなかった。クリスマスには姉のイザベラが夫や小さな子供をつれてやって来るので家も賑やかさをとり戻すけれど、それに先立つ十月と十一月の秋の夜長を、こうして二人で耐えていかねばならない。

『エマ(上)』ジェーン・オースティン作
工藤政司訳
岩波文庫(2000年)
『エマ』第1章のワンシーン。
マントルピースの前に座るエマ、
お決まりの愚痴をこぼすエマ父、
それに付き合うご近所のナイトリー氏。
by Christine M. Demain Hammond
Public domain

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離れて住む家族が帰ってくると、ご近所さんや親しい友人を招いてパーティーが催されることもありました。
『分別と多感』では、このような表現が出てきます↓。まるで徹夜でカラオケに興じる大学生のようです。

I remember last Christmas at a little hop at the park, he danced from eight o’clock till four, without once sitting down.

Sense and sensibility chapter ix  14

「去年のクリスマスに、うちで小さな舞踏会を開いたときも、午後八時から午前四時まで踊って一度も腰をおろさなかったんだ」

『分別と多感』ジェイン・オースティン
中野康司 訳
ちくま文庫(2007年)
摂政時代のロンドンにおける舞踏会の様子。
George Cruikshank • Public domain

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このようなパーティーが男女の出会いの場にもなっていたようで、オースティンの作品内にもそのような描写がいくつかあります。

そのことをよく表す『ノーサンガー・アビー』のワンシーンを最後にご紹介します。
少女マンガの擬音で表すと
「トゥクン…」といった場面でしょうか。

The very first day that Morland came to us last Christmas—the very first moment I beheld him—my heart was irrecoverably gone. I remember I wore my yellow gown, with my hair done up in braids; and when I came into the drawing-room, and John introduced him, I thought I never saw anybody so handsome before.”

Northamger Abbey
chapter 15

去年のクリスマスに、あなたのお兄さまがうちにいらした最初の日に、ひと目見てすっかり心を奪われてしまったの。あのときのことは今でもはっきり覚えているわ。私は黄色いドレスを着て、髪は三つ編みだったわ。私が客間に入っていって、ジョンお兄さまに彼を紹介されたとき、こんな美男子に会ったのは生まれて初めてだと思ったわ」

『ノーサンガー・アビー』ジェイン・オースティン
中野康司 訳
ちくま文庫(2009年)

元々は宗教的なお祭りのクリスマスですが、当時は社交シーズンでもあったようですね。

こちらは『分別と多感』のワンシーン。
ヒロインのエレノアがパーティーの席で
男性を紹介されている。
C. E. Brock (died 1938) • Public domain

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次回は「ユールログ」についての話です。
あまり聞き慣れない言葉ですが、その意味とは…

参考

・2nd Battalion 95th Rifles
A Regency Christmas
By Kieran Hazzard

・Wikipedia
十二夜 (民俗行事)
Twelfth Night (holiday)
クリスマスの12日間

・YouTube
Jane Austen Letter by Post
Christmas traditions of the Regency era.
How might Jane Austen have celebrated the
season?

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