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セブンスターの香りと父の秘密【月曜日の独り言】


昔から、父の車の匂いが大嫌いだ。

タバコの匂い。セブンスターの匂い。
これが嫌いで車から常に


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このように身を乗り出す危険な子供だった。
ちょっと窓を開けた位じゃ、あの強烈な匂いからは逃れられないの。父の車に乗ると元々酷かった車酔いが更に酷くなった。



父はヘビースモーカーだ。
幼い頃、父とよく「さんぽ」をした。タバコの自動販売機がゴール。タバコを買った時に鳴る「ピロッ」という独特な音が好きでいつも着いて行った。白地に小さい星がいっぱい。7が浮き上がって見えるパッケージ。セブンスターはお父さんのタバコ。

私が中学生の時、父は癌になった。
退院して、
「タバコは辞めた方が良い。」
と医者に言われたらしい。父はタバコをキッパリ辞めた。

はずだった。

--ある日の夜中、私は見てしまった。
部屋の窓を開けると、
父が玄関の前に立っているのが見えた。


--よく見ると、父には小さな赤い光が纏わり付いていた。
タバコの火だった。


辞めてなかったんだ。


怒ったところなんて殆ど見た事がない穏やかで優しい父なので。
「タバコは辞めた。」
という言葉をすっかり信じていた。
父が隠し事をするなんて、驚いた。

不思議と「父に対する信頼が崩れた」みたいな感情はなかった。それよりも
「タバコってそれ程依存性が高いものなんだ。怖いな。」
と思った。

父にも、母にも、この日の夜見た事は言えなかった。
「父はタバコを辞めた」事にした方が家族が上手くいくと思った。



しばらくしてから、なんと母も癌になってしまい、入院した。(もう両親共に癌は完治して10年以上。とても元気です!)
その頃兄は既に大学に進学し、東京に居たので父と2人で数ヶ月間を過ごした。
外食も多かった。


いつもと同じ外食。
ファミレスに入り、私は店員さんにこう言った。



「喫煙席で、お願いします。」



父は驚いていた。
バレていないと思っていたのだろう。
私も少しドキドキしていた。
平然としているフリをして


「私とお父さんだけだし、別に良いでしょ。」
と言い放った。


それから、父と2人で外食をする時は喫煙席を選んだ。
この時から、私が息子を妊娠するまでずっと。
家族全員の時は禁煙席。
父と私、2人の時は喫煙席。
父は私と2人の外食の時、心なしか楽しそうに見えたんだよね。


後日談。
しばらく経ってから母に聞いた話だけれど、
「あんなの(タバコの事)匂いでバレバレだよ。しょっちゅうやめてって言ってるのに辞めないの。」
と言っていた。
物凄い秘密を抱えているつもりになっていたのは私だけだった、というオチ。

夫婦って凄いね。





週末に実家に帰り、久しぶりに父の車に乗った。
車内はセブンスター臭で埋め尽くされていた。
くさい。酔うわ。
息子も母も平気そうだったが、
私は体調が思わしくなかった事もあり、辛かった。
上に書いた思い出話の事なんてすっかり忘れて、セブンスターに殺意を抱いた。


父の車で白鳥を見に行った。
家族全員喜んでいたが、
私は体中に力が入らず、瀕死の状態であった。


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帰り道。
田舎の道はガタガタしている。
車が揺れる。
雪もまだ積もっていたから尚更だ。
車内のセブンスターの匂いも相まって、
私の体調は最悪だった。

寒い?暑い?わからない。
お腹痛い?
気持ち悪い?
どれが正解なのかわからない‥。
ああ、この車、本当くさい‥。
ああ‥これ以上揺れないで‥
うぅ‥今、カーブ‥しないで‥

ちょっと待って‥。



「ねぇ‥お父さん。車、停めて。」



…。




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…。



もう、セブンスターの匂いなんて大嫌いだ。
お父さん、許せない。

もうさ、やっぱりタバコ、やめてよ。
年なんだから。
もうちょっと長生きするためと、
娘のために。
よろしく頼みます。





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