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お墓参り代行を依頼してみたら

自分の中にある一番古い記憶ってなんだろう。

いつもワンワン吠えていた犬が懐いたあの日?
友達に始めて意地悪を言われた日?
肩車してもらった時に見た空の色?

時系列があやふやで一番古い記憶がどれなのか分からないが、祖母がお墓参りへ歩いて行く後ろ姿は私の中に残る古い記憶の中の一つだ。

「納骨堂に行ってくる」


夏の暑い時も冬の寒い時も祖母はよくお参りしていた。夏休みはほとんど祖母の家に入り浸っていたが、私がくっついて行ったのはたった一度。祖母について行けば何か良いことがあるに違いない、と思い込みダダをこねてついて行った1回きり。

誰が言い始めたかわからないが、母方の家には『嫁いだら生家のお墓参りには行かない』ルールがあった。嫁いだ母も叔母も、いとこたちもお墓参りに行っている姿は見たことがないし、私も30年以上お墓参りは父方のお墓しか行ったことがなかったので筋金入りのルールだ。

だが、どうもこれが良くないらしい。

(詳しくは下の記事もご確認ください)


守護霊が保護するとか、ご先祖様が保護してくれるとか言うけれど、本来お参りにいかなければならないところを無視している形で少なくとも私にとってはかなりまずいとのこと。

昔、『お墓参りに行くと気持ちがスッとする』と友人が言っていた。線香と蚊に食われながら汗だくで掃除して手を合わせて、スッキリも何もないと謎だったが、友人はご先祖に守られていたのかもしれない。

焦って昨年、引っ越し前にお墓参りへ行ったがそれから1年経とうとしている。
そろそろ行った方がいいのではないか。。。

だが、子連れでコロナ禍の中、飛行機や新幹線を乗り継いで行くとなると、フラペチーノを1日に2杯飲むまたは好物のフラペチーノとたい焼きを1日で食べるぐらい無謀な計画だ。胃がもたれる。

どうしたものかと悩んでいたらたまたま『お墓参り代行』の記事を見つけた。
コロナ禍でお墓参りに行けず困っている人は他にもいるようで、業者に代行を頼む人も多いらしい。プロによるお墓の掃除や周辺の草刈りは素人がやるより綺麗になるとか。遠方への移動が難しいご時世もあるが、評判は良いようだ。

ご先祖様は子孫でないものがお墓参りしても嬉しいだろうか。遠隔でも伝わるのだろうか。調べていくとお墓参り代行は何も現代に始まった話ではないらしい。江戸時代のお伊勢参りだってお参りの代行だし、忙しい主人に代わって家のものが代行業務することもあったようだ。名家の主人でも何でもないが、お伊勢参りが流行った江戸時代に倣ってみるとしよう。

意を決して請け負ってくれる業者を探し始めたら、なかなか見つからない。その地域はエリア外だとか、もう代行業務はやっていないんですよーとか、お盆の時期が近いのもあり新規の依頼を受けるのは難しいと断られ続け、ようやく見つけたのはお使い代行と看板に掲げる業者だった。いわゆる何でも屋さん、銀魂の銀さんだ。
動画で現地の映像を流し、通話もしながらお参り可能とのこと。せっかくお金を払うのだし、仕事を早退してオンラインお墓参りをしよう。

仕事を早退して自宅に戻ると、LINEに着信が入っていた。
既に到着し、スタンバイしていただいているようだ。

お菓子のお供えと生花は禁止されているので、簡単な掃除と古い缶ビールのお供えを新しい物に交換してもらった。お線香を3本上げる様子が動画で映り、おりんを鳴らす音が聞こえる。
(あのお寺の鐘のような音が鳴る仏具はおりんというらしい。)
画面越しに響くおりんの音が身に沁みる。
もうやり残したことはないだろうか。次直接お参りできるのはいつになるだろうか。

うだうだ悩んでいても仕方ない。今思いつくことは全て対応してもらった。
お礼を伝えて終了の旨を伝えると

『会いたくなったらまたいつでも連絡して下さいね。お待ちしています。』

その言葉で雷が落ちたように目の前がパッと白く明るくなった。
御加護が欲しいとか、悪い縁を切りたいとか、助けて欲しいからだとかそんな気持ちだけだと思っていた。

それだけじゃないんだ。私は会いたかったのだ。

郷土愛があるわけでもなく、帰りたいと思ったこともない。
なのに、会えないことが悲しい。

なぜなのかわからない。

でも涙が止まらない。

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