三題噺 海賊の魔法鏡
選ばれた三題噺のお題「雪の降る夜」、「海賊と隠された財宝」、「魔法の鏡」
机の上のコンパスが揺らめく。
めずらしく室内は落ち着いており、椅子がひっくり返る事も無い。
しんしんとふる雪とともに、船は
おだやかな波をゆったりと進む。
船の甲板は白く彩られた。
先日はさんざんだった。
どうでもいい理由で相手をした海賊だったが、戦利品は意外なものがくっついてきた。
色あせて茶色になり、端々に切れ目が入った地図には、ありきたりな赤い×が入っていた。
隠された財宝などありやしない。
その地図に期待などしていなかった
野望というよりは仕方なく海賊家業に手を染めた。
夢など追い求める余裕など無く、ただ日々を過ごすための略奪が求められた。
面白みの無いルーティンワーク。
そんな中にでてきた、あからさまなまでの地図。
向かってみるのも、また一興か。
船員に意向を告げると、意外にも乗り気だった。
俺と違い、まだ海賊に夢を見れているようだ。
「船長、地図のあたりまで来たぜ」
呼びかけられ、地図に目を落とす。
どうやら目の前に見える小島に物はあるようだ。
小島に乗り込み、探索をする。
目当ての物はすぐに見つかった。
色あせた木箱があり、鍵もかかっていないようだ。
「言い出しっぺのあんたが開けろよ?
蛇でも出て、噛まれちゃ嫌だからな」
減らず口を叩く船員に苦笑しつつ、木箱の前に立つ。
風化して赤茶けたちょうつがいはかろうじて仕事を終え、木箱の中が明らかになった。
それは、鏡だった。
しかし、それは現実を写していない。
どこかの、何かの風景。
うすぼんやりとした白い靄が見える。
何が写っているのか、細部まで見ようとしたとき、それはいきなり変容した。
俺の船が、夜の荒波に揉まれ今にも転覆しそうになっている。
雷鳴が絶え間なく降り注ぎ、ある種のライティングのようだ。
俺は必死になって船員に指示を出しているが、健闘もむなしく、船は大波に襲われ大破する。
「これは・・・」
「何があったんだ、船長」
おそらく、未来を写す鏡らしい。
ただの船乗りが持つべき代物では確実にない。
その上、自らの破滅を予言するときたものだ。
この未来が、いつ来るのかは分からない。
しかし、これを見せていると言うことはおそらく破滅が近いことを示唆している。
「黙りこくってないで、見せてくれよ」
「いや、見せることはできない」
「なんでだ?」
答える前に海に投げ捨てた。
「あ!」
「何やってるんだよ・・・」
「気でも狂ったか?」
散々の言われようだが、致し方あるまい。
死ぬ未来を見たところで面白い物はなにもない。
それに、鏡なんぞに未来を決定されるのも癪だ。
いつ、どうなるか、分かったところで生き方は変わらない。
「なんで捨てたんだよ?」
「俺たちのことをあの鏡は馬鹿にしやがったものでな」
船員達は俺の返答に首を傾げている。
それでいい。