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レキオス 所感

SFが読みたい!国内ランキングに入った作品、レキオス。

裏表紙のあらすじは以下の通り。

「舞台は西暦2000年の沖縄。米軍から変換された天久開放地の荒野に巨大な魔方陣が出現する。1000年の時を経て甦る伝説の地霊(レキオス)を巡り、米軍、学者、女子高生、ユタ達が入り乱れ、ついにその封印は解かれてしまう。大いなる魔法が完成するとき、人々はそこに何を見るのか?」

自炊した本がそろそろ200冊弱になり、読む本を選定するのも難儀になってきた。
そんな中、本のあらすじを読んで大いに興味を惹かれ選んだ。

巨大な魔方陣が出現は流石に気になりすぎた。

ざっくりとした感想としては、あまりにもカロリーが高すぎて消化しきれない。

ペンタグラム、魔術、沖縄のせーファ御滝と100年以上前に行われた魔術的行為の関係。

レキオスとは何か。赤い山羊の眼で部下に有無を言わせないキャラダイン中佐。

天才と馬鹿は紙一重だが、天才と変態が両立したオルレインショー博士の大胆不敵な行動。

沖縄米軍基地の中で育ったが、沖縄に土地が返還されたアメリカ人とも日本人とも縁が遠いことで迷いを抱える主人公デニス。

要素があまりにも一個一個が重く、ディテールも詳細で内容を咀嚼するのにかなり手こずった。

その上、物語の時間軸が流れるように過去現在未来を自在に移り変わるが、無理なく読み進められる。

とにもかくにも魔術や占い、気力に変わる概念としてのセヂがどうなのかと、謎が謎を呼ぶためページをめくるのが止められなかった。

ただ、物語がどういった形で勧められるか把握できるまでが厳しかった。中盤あたりでようやく理解できるようになり、そこからは楽しく読むことが出来た。

読む際には序盤の展開が遅いため、そこだけ耐えて欲しい。

以下に好きな文章表現を紹介していく。ネタバレありのため、ご承知願いたい。

66p
毎日の半分の時間、幸福が頭上にあることに誰も気がつかない。高すぎて高すぎて、誰もが幸福は遠くにあると思っている。

85p
有線放送とジュークボックスが鳴り響く店内でカラオケまで熱唱されて、空気が振動している。工事現場の方が単調な分、まだマシだ。「ブルーチャイナ」は今夜もディープな客を、地下に閉じ込めて逃がさない。

アングラな世界観が鮮明に見えてくるこの感じ、良い。工事現場の方がマシというあたりからどれだけうるさいか伝わってくる。

108p
視界は一直線の滑走路だ。
「デニス、時速200キロまでぶっとばせ」
「Okay,Here we go」
アクセルを吹いた爆音が二人の言葉を300メートル後ろに置いていった。

118p
デニスが東洋的な微笑を浮かべた。どこか憂いを含んだそれは、ポチャンと零れ落ちないギリギリの表面張力が働いている。

「泣きそうな表情」の描写としてとても秀逸に感じた。こういった表現ができるようになりたい。

122p
部分を持ってサマンサを語るべからず。表現形は両極にあるサマンサを分裂している女だと判断するのは早計だ。実はサマンサの脳は見事に統合されている。キーワードは「チセイ」だ。入力して感じを変換すると「知性」か「痴性」のいずれかにボタンひとつで変換される。どちらが出るかは賽の目しだいだ。つまり彼女の知性と痴性は不可分の関係にある。

変態博士の紹介部分だが、こうやってうまいこと説明されると「なるほど」と納得しそうになる。
いや、変態と天才が両立するのか?

184p
多様性を共存させているサマンサを測る物差しは、この夜に存在しない。むしろ彼女を基準に新しい物差しを作るべきだ。イメージは変態的に、ロジックは天才的にまで進化させた彼女は、右脳と左脳のバランスがとれている。その中間にあって自在に制御できるのがサマンサの人格である。

またもや変態博士の紹介。
独特な言い回しでの解説に妙な味がある。
本書におけるこの人の存在感がすごすぎた。

210p
「どうぞ。報告したら?死にたかったらね」
ワイリーの顎に銃が当たっていた。

発言の後に行動が置かれていることによって、ライブ感がある。
「当てていた」ではなく、「当たっていた」と表現することで、考えるよりも先に体が動いているような印象が与えられる。

213p~214p
「科学と宗教はいずれ融合する。誰の言葉か知っているかな?」
「知らないわ。ローマ法王がいったのかしら?」
フェルミは窓ガラスに映るコニーの顔を見て笑い返した。
「アルバート・アインシュタインさ」

chatgptに聞いたところこんな発言は無いようだが、それっぽい感じがよく出ているため良い。正直、読書中は本当の発言だと思っていた。

250p
米軍の駐留する町はどこも同じ印象を受ける。圧倒的な敷地を広げる基地が絨毯だとすれば、その裾を装飾するように町が細長く縁取っている。

310p
フェルミは夢が現実とおなじくらいもっと鮮明だったら、迷うことはなかったと思う。仄かな姿しか見せないから、現実にいつも浸食されてしまう。夢を見たければ、その微かさに集中しなければならない。フェルミは息を吸い込むと瞳に力を入れようとした。

345p
「いつまでたっても仮の姿で自分を誤魔化しているんじゃないの。カッコ悪い。あなたたちは可能性を広げているようで、実は自分の首を絞めているのよ。『いつかする』『いつかこんな人になりたい』この理論が破綻しているのは『今の自分は駄目だけど』ってところよ。嫌いな自分が発展したらもっと嫌いな自分になっているのが筋じゃない。足下がぐらいついているわよ」

変態博士のありがたい名言。
変態だが、言い得て妙である。

373p
デニスはサマンサの言葉を思い出した。人には役目がある。それを自覚するのとしないのとでは人生が雲泥の差だと頭に響く。

またまた変態博士の名言。
正味、短い人生の中で自分が何をしなければいけないのか、自覚している人間は強いだろうと思える。

479p
「行きましょう、オキナワヘ。あの太陽の島へ」
「私の青春の土地だ。一番輝いていた季節を置いてきた」

デニスとその父親との会話。とにかく表現がおしゃれ。

以上、個人的好きな文章表現集。