出版社から見た雲

ハヤトは大手町のあるビルの20階に着いた。


東京のビル群が見える。


目の前をせわしなく歩く靴の音が聞こえる。


少し緊張している自分を感じる。


気を取り直して、何歩か歩き、


受付の女性に要件を伝える。


その後、にこやかな女性が現れて、


広い会議室に案内された。


うーむ、都心の一等地に広い会議室。


さらに、円卓の机に椅子が20ほどある。


スゲーな。


さすがは日本有数の出版社である。


そこに専務、役員2人があらわれた。


「いやー、ハヤトさん。よくおいでくださいましたー」


こちらは1人であちらは2人。


ハヤトは少し気後れしつつも、


高校中退なのだからこんなことはどうでもいいことだ、


と気合を入れて手短に挨拶を返して名刺交換をした。


ハヤトは不器用であり、名刺交換が苦手だ。


社会人になってから数え切れないくらい名刺交換をしてきたが、


いつも「これでいいのかな、、、」と思いながらなんとなくやっている。


相手が何人もいると手元が混乱してくる。


幼稚園くらいの頃から礼儀や形式性を求めるものは苦手だった。


ハヤトは「ヤレヤレ」とうんざりしながら軽くため息をつく。

そもそも、ハヤトはなぜこんなところに呼ばれているのか??


それには話を1年前に遡らなければならない。


ハヤトはある奥様から不登校の相談を受けていた。


そして、その後、その奥様のお子様が学校にまた戻ったのだが、


なんとその奥様というのが日本有数の出版社の専務の奥様で、


「ハヤトさん、本を書きなさいよ」と言われ、


その後、奥様と専務と港区のイタリア料理店に招待されたのだった。


静かな店内だが、


美味しそうな牛肉の良い匂いが充満する店内で、


よくよく冷えたビールを飲みつつ、


雑談をした後、


麻布十番駅に向かう途中で専務は酔っ払いつつ冷静にささやいた。


「ハヤトさんの本は売れませんね。


でも、ウチの会社は売れる本を作るノウハウを持っています。


2週間後にうちの会社にいらっしゃい。」


そんなノウハウが存在するんかいなと怪訝に思いつつ、


ハヤトは大手町の本社ビルまでのこのことやってきたのだった。


会議室で専務は言った。


「ハヤトさん、まずはツイッターやブログのフォロワーを伸ばすことが重要です。


フォロワー数で本が何冊くらい売れるのかが読めるわけです。


あと編集者をご紹介しましょう。」


編集者の藤本さんという方が丁寧に挨拶をしてくれた。


編集者と言っても大企業の役員である。


ハヤトはADHDタイプであり、


残念ながら礼儀が苦手だ。


とはいえ、ぎこちなく挨拶をお返しした。


その後、しばし雑談をしてハヤトは地上に降りた。


早速、ハヤトはツイッターを開設したのだが、


ハヤトはADHDタイプであり勢いは良いのであるが、


途中で面倒になってしまった。


そして、早2年が経った。


ハヤトは思う。


そもそも自分は何を伝えたいのか??


軸が必要だ。


うーん、と考える。


考えつつ5月の青空を眺める。


道はまだなかばだ。


深呼吸をして雲を眺める。


雲がのんびりと流れていく。


今、吐いた息はどこまで流れていくのだろうか。


今、吸った息はどこから来たのであろうか??


ハヤトはその昔、学校に行くと言って家を出て、


田んぼで空を眺めていたことがある。


ずいぶん遠くまで来たような気もするが、


全然変わっていない気もする。


でも、どこまでも遠くまで行ってみたい。

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