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【本のこと】『うしろめたさの人類学』

過ごしやすい気候になってきて、運動が楽しい今日この頃。

しかし、体育館は相変わらず暑い……

「ここには夏と冬しか存在しないのでは?」と感じる、バドミントンを始めて3回目の秋です。



さて今回の作品は、松村圭一郎さん著『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)

興味深い作品がこっそり沢山詰まっているミシマ社さんですが、これもその1冊。

今年の2月時点で、既に10刷を達成したそうです(ビックリ)!

1ヵ月以上前から図書館で予約していて、先週ようやく我が家へお迎えできました……長かった……

そんな待ちに待ったこの1冊から私が感じたことを、(誰得でもないのですが)気ままに綴っていこうと思います。



文化人類学って、何だろう?

著者である松村さんは、文化人類学を専門としておられる学者さんで、岡山大学の先生でもあります。

エチオピアの農村や中東の都市でフィールドワークを続け、富の所有や分配、貧困と開発援助、海外出稼ぎなどについて、研究されているそう。(著者紹介より)

机にかじりつくことをメインの勉強方法とする法学部生にとって、「フィールドワーク」という言葉は、何だか異世界感があります。

両親が人文学分野の出身なこともあり、どこかで「人文学系の研究も面白そう……」と感じている私です。

おっとっと。脱線してしまいました。

文化人類学って、何だろう?というお話でした。

大辞林(第三版)によれば、「人間を文化・社会の面から実証的に研究する学問。文化の構造・機能・動態・類型などを研究する」そう。

松村さんの言葉をお借りすると、「文化人類学の探求は、…他者の傍らに立ち、その姿を見つめるところから始まる。そこから世界の別の姿を想像してみる」(11頁)。

人という媒体を通じ、文化を構築する分野を探求していく学問…という感じなのかな、と私は思っています。

そして、松村さんはこの作品で、文化人類学の中でも特に「構築人類学」を扱っておられます。

「ぼくらが、いつもそこにあると信じて疑わない『ふつう』の世界は、じつは傍らにいる他者によって、つねにその足もとを揺さぶられている。この本が目指す『構築人類学』は、その揺さぶりに寄り添って、別の世界の姿を考える」(14頁)

「そもそも『構築(主義)』って何だろう?」と私は感じましたが、これは「何事も最初から本質的な性質を備えているわけではなく、さまざまな作用のなかでそう構築されてきた、と考える視点」(15頁)だそう。

例示するならば、日本人であるというアイデンティティー、「ストレス」という新たな概念、などなど……

そして松村さんは、「構造主義には、視点を転換する力がある。…これまでの『構築されている』という批判から、『どこをどうやったら構築しなおせるのか?』という問いへの転換。それがこの本の目指す『構築人類学』の地平だ」(17頁)とも、述べておられます。

構築しなおす。

「世間がアップデートされ続ける今の時代、この考え方は非常に重要になるのだろうな」と、私は感じました。



Gift? Merchandise?

お気に入り1つ目。

第1章の冒頭で登場するのが、「贈り物と商品の違い」。

私は、何事に対しても定義づけすることが好きなので、好奇心アンテナがぴょこぴょこ立ちました(笑)。

「商品交換と贈与を区別しているもの」について、フランスの社会学者であるピエール・ブルデュは「モノのやりとりのあいだに差しはさまれた時間」だと述べたそう。(24~5頁)

また、「贈り物として人に渡すときには、その『商品らしさ』を…そぎ落として、『贈り物』に仕立て上げなければならない」(25頁)と松村さん。

確かに私は、誰かにプレゼントを渡す時、買ったそのままの状態を渡すのは気が進まず、ラッピングしたり手紙を添えたりしています。

「自分の行動パターンがこういう定義に落とし込めるのか!」と、こっそり感動しています。

「人とのモノのやりとりを、そのつど経済的な行為にしたり、経済とは関係のない行為にしたりしている」(26~7頁)の一文にも、赤べこのように頷いてしまいました(笑)。

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Work for ○○

お気に入り2つ目。

「『働く』ことは、市場での労働力の交換だと説明される。この「あたりまえ」の理解が、労働が社会への贈与にもなりうることを見えなくする。…誰になにを贈るために働いているのか。まずはそれを意識することから始める。『贈り先』が意識できない仕事であれば、たぶん立ち止まったほうがいい」(179頁)。

最後の一文に、背筋がピリッとしました。

8月末~9月上旬、10日間のインターンシップに参加した私は、「新たな価値で自分も相手も幸せにすること」を「働くこと」の一部だと考えるようになりました。

そんな時にこの作品を読んだため、「そうか。相手が必要なのは、『贈り先』を意識するためなのか」と、定義の解像度が上がったのでした。

再び赤べこ、という感じです(笑)。




今回ご紹介したのは、松村圭一郎さん著『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)でした。

気がついたら2,000文字を超えていて、ビックリしています……

題名の「うしろめたさ」が何を示すのか。

エチオピアでのフィールドワークで、松村さんは何を考えておられたのか。

紹介しきれなかったポイントが気になる方、ぜひ読んでみてください!

それでは、良い1日となりますように。