雨上がり
忘れられない瞬間がある。
重苦しい灰色の空の下、土砂降りの雨の中を
私は赤い車を運転して家へ向かっていた。
雨の運転は嫌いだ。
視界は悪いし、狭い道となると
歩行者に水しぶきがはねないように気を付けて走らねばならない。
気を遣うことが多くて疲れる。
しかし、家が近づくにつれ、だんだんと雨が弱まり、駅前の交差点を通過するときには、雲の間から日が差して、雨が上がり、道路を濡らした雨がキラキラと輝き出した。
その時だった。
車で聞いていたラジオから
B.J.トーマスの、「雨に濡れても」が流れてきた。
軽快なウクレレの音色、雨の切なさと、
雨に濡れた世界を包み込むようなメロディ
わぁ・・・
こんなに素晴らしい瞬間はなかった。
映画のワンシーンのように、目の前の風景と音楽が一致して、雨の運転で張り詰めた神経が一瞬で癒された。
20年以上たった今もその時の空気の輝きを鮮明に思い出すことができる。
この素敵な曲と、
ちょうど雨上がりにこの曲を流したラジオと、
あの時の赤い車を思い出すと、
今でも胸が跳ねるようなときめきを覚える。
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