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これは小説です。

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勢いで初めてみました。 短編小説を投稿していく予定です。マガジン名悩み中。
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2020年6月の記事一覧

私が六月を食べました。

私が六月を食べました。

 私が六月を食べてしまったことに私以外誰も知らない。

 六月に生まれるはずのすべてが、六月に消えるはずのすべてがもう二度とないことを私以外の誰も知らない。

 私に六月を食べさせる原因を作った悪魔が言った。

「今日は過去に手紙を書いていいよ」
って、だから私は過去に手紙を書いている。

この手紙が六月に届きますように。そしてあわよくば昔の私に届きますように。

六月は食べてはいけない。

六月

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蜂蜜に漬けられている

蜂蜜に漬けられている

 その木小屋の屋根の板には黒いぬめりを帯びた苔が生えており、わずかに緑の草が何本か生えている。

小屋の壁は見るからに朽ち果てていているが、誰かがカラースプレーで落書きをした文字が鮮やかに描かれており、左には誰だかわからない西洋人らしき男の顔のシールが貼られている。西洋人男性の顔のシールには防水加工がされており、その木小屋のキャラクターかのように貼られている。
 
はっきりいって誰がどうみても廃屋

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nobody knows her name_4/4

nobody knows her name_4/4

 あれ以降私は何度か男性に声をかけられたがゲームが好きそうな男性は避けた。

 そうして避け続けた結果声をかけてくる男性ほとんどがソシャゲにハマっている男性ばかりであった。
 暇な大学生活をもてあそんでいるのだからしょうがないと言えばしょうがないのであるが、私にはその事実が強迫観念のように付きまとっていった。

大学二年の夏、私は一人の男性に声をかけられた。

「ゲームしていますか?」

 私は気

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nobody knows her name_3/4

nobody knows her name_3/4

 それから斎藤とは三回ほどデートをした。最初に行ったのは映画館で、その次はショッピングモール、そして三回目のデートの場所は水族館だった。
 
 斎藤と一緒にいる時間は楽しく心地よかった。最初に会った時より印象がよくなることはあれど悪くなることはなかった。斎藤ははまっているゲームがあるらしく時折スマホを弄る癖があったが、それくらいは特に気にするほどでもなかった。

まだお互いが正式に付き合うと決めた

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nobody knows her name_2/4

nobody knows her name_2/4

「同じ大学の斎藤です。よかったら会いませんか?俺、本とかゲームとか好きで気が合いそうだなと思ったんです。」

 わかりやすいナンパだと思った。しかし、インスタに顔写真を上げてそこからこのようなメッセージがいかにも怪しい人物を除いて声をかけられたのは初めてだった。

斎藤のインスタのアカウントを見るとリアル垢のようでアニメのイベントに行った写真や友達と思われる人物とキャンプに行った写真など平凡なもの

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nobody knows her name_1/4

nobody knows her name_1/4

 私はごく普通の一人の女である。特徴なんてとくにない、強いて言うなら無理やり絞り出すならいくつかはあげられるけれど特別なんかではない。
 時折友人から見た目を褒められることくらいであろうか、あえて言うなら不細工ではないだろう。自分の認識はそれくらいだった。
 
 それはある日までのことである。あの日から私は特別な存在になった。
「ねぇ君って……」
 その言葉の続きは聞かなくとも分かっていた。彼がそ

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