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カントリーマアム以上、ビターチョコ未満

高校生のわたしは3年間、世界史の先生に恋をしていた。

どうにかこうにか気を引こうと勉強をがんばったり、用もないのに職員室に足を運んで適当に質問を作って先生に話しかけたり、先生との話題作りのために歴史モノの映画を半分眠りながら深夜に観たり。
スパルタクス!ベンハー!クレオパトラ!

ヘアアレンジは得意じゃないから、できて三つ編み。なかなかにいい感じにできたので放課後の職員室で先生に話しかける。

「せんせえ、これかわいい?」

三つ編みを摘んで返答を待つ。
明らか迷惑そうな顔をしている先生。
わたしは当時、どストレートな表現で迫るめんどくさい生徒のひとりであった。
呆れ顔の先生はこう言う。

「あのねえ、かわいいっていうのは自分から聞くもんじゃないんだよ。相手に仕向けて言わせるんだ」

出直してきな、と言い先生は机の引き出しを開けてカントリーマアムバニラ味を2個、わたしの掌に載せてくれた。

言わせる、言わせる、仕向けて言わせる。
でもどうやって?
高校生のわたしには早稲田の過去問よりも難問だった。まあ早稲田の過去問もふつうに解けなかったですが。

先生の助言を胸に、大学に入ってからちょっとずつそのコツがわかったような気になったり、やっぱりよくわからないやを繰り返して大人になった……?いやいや、今でも言わせるコツはよくわかっていません。そんなもの永遠にわからない気がします。

「ねえわたし今日めっちゃ可愛くない?」と街でじぶんのことを指差す少女たちが足早にわたしを追い抜くたびに、まだまだカントリーマアムの甘っちょろさだわ、なんてむかしをなつかしく思い出す四十路前です。


※このお話は実話にフィクションを織り交ぜています。



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