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彼女のことを、上から見るか、下から見るか

わたしの実家は下町でラブホテルを家族経営していた。
社長であった祖父が亡くなると、叔母のひとりがすぐさま遺産を分けろと憤り、後継者であった父は泣く泣くホテルを売り渡して遺族に遺産分与をしたらしい。
そのあと父と叔母は仲違いをして連絡も取っていない。

この話を聞いた時、なんて強欲な叔母だろうと幻滅した。

時が経ち、風の噂で叔母が飲食店を開くと聞いた。父はお祝いの品など送らなくていいし、わざわざ出向かなくていいと言った。

ある日母がいつもよりしっかり化粧をしているので、どこに行くのかと聞いたら叔母の店に行くという。

どうして。あんな強欲なひとのもとに?

母は言った。
「その叔母さんはね、離婚をしていて女手ひとつで子供を育てていたから、お金がどうしても必要だったんだよ。必死だったんだよ」

母の後をついていくと、一軒の飲み屋があった。
手土産を渡して叔母と母が簡単に言葉を交わす。

父が言う叔母と、目の前の叔母は随分と違う様子だった。
わたしのなかの何かが覆された瞬間だった。
わたしが常々、人の言うことを鵜呑みにしないと述べているのはこの経験があったからだ。

一方の立場からは、そこから見える景色しか見ることができない。
父の視点からは強欲な叔母の存在しか見えなかったが、実際に会った叔母はカラカラとよく笑う女の人だった。

わたしは小学4年生までラブホテル街の敷地内に住んでいたのだけれど、ホテルを売却したあとはそこから少し離れたマンションに住むことになった。

後から母親に聞いた話では、子どもをラブホテル街に住まわせたくなかったとずっと思っていたとのことだった。
母には母の思いがあったのだ。

起こった事実はひとつでも解釈は無限にあるが、
事情を聞いた数が多いほど、真相に近づけるはずだ。
そんな当たり前のことを思いながら、今日も今日とて「主観」「偏見」「思い込み」と対峙している。

#日記 #エッセイ

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