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島田慎二が語る、千葉ジェッツというチームの話。2015-16~2019-20シーズン編

前回のnoteでは、2012年に千葉ジェッツ社長へ就任してから、2014-15シーズンに初めてリーグ戦を勝ち越すまでのことを振り返りました。

今回はその続きから、Bリーグ2019-20シーズンが終了するところまでです。しかしまあ、いろんなことがありました。

2015-2016シーズン ケミストリー不足の年

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レジー・ゲーリースタイルの集大成となるシーズン……のはずが、ゲーリーとの契約がまとまらず。ヘッドコーチが移籍してしまうという状況になりました。

スポーツに限らずさまざまな組織で3年で熟成させるというのを目安にすることが多いですよね。1年目にベースを作って、2年目でそれを伸ばし、3年目で完成させる。成績的にも雰囲気的にも、まさにその流れになっていただけに残念でした。

選手ももちろんですが、スタッフ陣も契約ごとというのは難しいものです。獲得するのも、慰留するのもです。かわって招聘したのはジェリコ・パブリセビッチ。経験も実績もあるHCでしたが、ゲーリーとはスタンスが真逆で、選手も戸惑ってしまいました。

この年、富樫勇樹が電撃加入。彼の加入に至るエピソードはさんざんいろんなところで書いていますので割愛します。(知らない、という方はぜひ拙著を……笑)西村文男、阿部友和、宮永雄太という盤石なPG陣が揃っている状況ではありましたが、この決断は正解だったと感じています。

そのPG陣に象徴されるように、良いメンバーは揃っていたわけですが、一度崩れたチームのケミストリーを立て直すことは容易ではありませんでした。3月にはジェリコとの契約を解除し、前年に引退していた佐藤博紀GMがHC代行を務めることに。このシーズン、最終的な成績は22勝31敗でした。

監督の考えていることと、選手の考えていることの意識合わせがなかなかできなかった年という印象です。今まで純粋な力不足で勝てないというシーズンはありましたが、いい選手がこんなにいる、いけるかな、と思ったのに勝てなかったというギャップが一番大きかったシーズンでした。

いい選手がいても勝てないのは、チーム全体のケミストリーが噛み合っていないから。勝つためには選手の質とチームの質の両方が必要だと思い知りました。これは経営の一般論においても同じことが言えますね。いい人材を揃えても、会社としてうまく機能しないケースは往々にしてあります。

千葉ジェッツふなばしを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」という経営理念はある。しかし、チームとしての理念はなかったと気づきました。

確かに選手の質は素晴らしいものがあったが、"会社の理念とチームの理念が合致した上で、理念を実現するために必要な選手を獲得する"という筋を通すことが必要だったのです。

経営理念を考えたときと同じように、時間をかけてチーム理念を考えました。そしてジェッツは"走るバスケ"をやるべきであり、そのチームスタイルを磨き上げることが勝利に近づくという結論に達したのです。

それを実現できる情熱のあるHCを探し、巡り合ったのが大野篤史でした。

2016-2017シーズン Bリーグ開幕

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この年はついに統一プロリーグであるBリーグが開幕。bjリーグでは弱小だったジェッツですが、NBLに移籍しての3年間でクラブ力、チーム力は磨かれました。両リーグを経験した唯一のクラブとして、きちんと結果を出さなければいけないシーズンです。

この年はマイケル・パーカーが加入。富樫とパーカーのコンビが暴れまわった印象が非常に強いですね。彼を口説いたとき、私はろくに英語を喋れないのに1対1でミーティングしたんです(笑)紙に書きながらのたどたどしいコミュニケーションだったと思いますが、そんな情熱が伝わったことは加入の一因だったかもしれません。

そして「多くのお客さんの前でプレーしたい」ということ。ちょうど前年、ジェッツのシーズン観客数が10万人を突破したタイミングでした。いい選手を獲得するためには、たくさんのお客さんが熱狂的に応援してくれることが大事だということがわかります。パーカーは帰化選手ということもあり、ジェッツに大きなアドバンテージをもたらしてくれる選手となりました。

さらにヒルトン・アームストロング、タイラー・ストーンを補強し、大野バスケは1年目から機能。シーズンを44勝16敗で終えることができました。強豪ひしめく東地区では3位となってしまいましたが、クラブ初タイトルとなる天皇杯で優勝することができたのです。この瞬間が、ジェッツに関わってきて一番嬉しかった瞬間です。

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理念に基づいてチームが一丸となり、結果は出ました。ですが、まだまだ成長しなければいけないというのは、チャンピオンシップ準々決勝で栃木に20点差をつけながら逆転され敗退という結果で思い知らされることになります。この差を埋めなければいけない。埋められるはずだ、という来シーズンへの期待を持ってオフに入りました。

2017-2018シーズン "あと一歩"が届かず

"走るバスケ"を実現すべく、"走れるビッグマン"を補強する必要があったこのオフでしたが、今やチームの顔となったギャビン・エドワーズを獲得することができました。確立されたジェッツスタイルの象徴的選手なのは言うまでもありません。同じくこのオフに獲得したアキ・チェンバースも、スピーディーなプレーでチームに大きく貢献してくれました。

天皇杯は2連覇。富樫が怪我で出場できなくなり、連覇は絶望かなどと言われることもありました。しかしそんな声を跳ね除け、西村文男を中心としたチームの奮起によって優勝、文男は天皇杯ベストファイブに選ばれました。富樫がいないから負けた、なんて絶対言われたくなかっただろうと思います。

そして、出場できないのは悔しかったでしょうが、ベンチで誰よりも声を出していたのは富樫。総合的なチーム力、チームとしての大きさがどんどん増しているという実感がありました。前年優勝したときとは別の、子の成長を感じる親のような喜びでしたね。

シーズンは46勝14敗と前年成績を上回り、東地区1位という結果を得られたものの、チャンピオンシップファイナルでアルバルク東京に完敗し、掲げてきた"打倒トヨタ"のストーリーは完結しませんでした。あと一歩というところまできた初優勝の機会を逃した、と言ってしまえば簡単ですが、その一歩の遠さ、大きさを思い知ることになりました。

ジェッツは、全プロチーム・実業団チームの中ですべての要素が最下位のような状態から、一気に階段を駆け登ってきました。その勢いを持って最後の最後まで登ってくることはできましたが、さらに一歩、そこを超えられる勝者のメンタリティがなかったということだと思います。

ここからの一歩は、今までとは比べ物にならない大きな一歩です。何度でもファイナルに来れる、安定して強いチームにならなくてはいけない。そして次のシーズンは"忘れ物を取りに行く"という強い気持ちがありました。

2018-2019シーズン 最高勝率記録樹立

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52勝8敗、勝率.867。この勝率記録は、もしかしたら今後永遠に破られることがないかもしれません。チーム戦力の差は年々埋まっている上、強豪だらけの東地区でこれだけ勝つというのは、奇跡のようなものだったと思います。

なぜこんなに勝てたのかを考えてみると、各部門各人が全員、同じ方向をむいて勝つことにフォーカスしていたから、という結論に尽きます。トレーナー、コーチ、コート上の選手、ベンチにいる選手、練習生も、みんな去年の悔しさを晴らしたいという一心で気持ちを研ぎ澄ましていました。

大野体制は勝負の"3年目"。すでに選手たちはかなりフィットしていて、さらに精度を上げていく作業に入っています。緊張感を持ちながらも、大きな自信を持って戦えていました。神がかり的な成績ではありますが、もちろん運だけではなく、チームの努力と情熱によって手繰り寄せたものだと思います。

実は私は、この年を象徴する存在はトレイ・ジョーンズだったと思っています。外国籍選手は、試合に出て、価値を上げて、サラリーを上げてステップアップしていくという面が強い立場です。しかしジェッツで出場するのは同年に加入したジョシュ・ダンカンとギャビンがメイン。トレイにとっては難しい状況で、怪我もあったが、一切不満を出さずに頑張ってくれました。

その姿こそ真のプロフェッショナルでしたし、出場機会は少なくても、彼がいてくれたことで全体のチーム力が大きくなったはずです。バスケットの力量・技量はもちろんのこと、人間性も素晴らしいということで獲得したのですが、彼のような選手がいてくれたことはジェッツにとって本当に幸運でした。

そして原修太、石井講祐という地元出身選手である2人の活躍も大きかったです。原修太は年々プレータイムを伸ばし、外国籍選手にも当たり負けないタフな選手に成長していますし、石井講祐はこの年ベスト3ポイントシュート成功率賞のタイトルを獲りました。

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天皇杯はなんと3連覇。この年はミラクルの連続でした。準決勝で残り0.5秒からパーカーのゴールで逆転、決勝では残り2秒から富樫の3ポイントで逆転。こんな筋書き、漫画や小説でもないでしょう。それほど3連覇というのは凄いものです。トーナメント戦でずっと連勝を続けているということですから。

アイシンシーホース(現・シーホース三河)が2度4連覇を果たしていますが、今とレギュレーションが違って試合数が少なかったり、Bリーグ発足によって当時よりチーム格差が縮小していたりします。単純比較はできませんが、引けを取らないくらいの偉業を達成したと言っていいのではないでしょうか。

なんでこんな奇跡が起こるのかな、と思いましたよ。バスケの神様がジェッツを勝たせてくれているかのようだと。そういったスピリチュアルな"何か"があるのかもしれないとは、今でも思っています。ジェッツが作っている歴史が、日本バスケ界にとって良いことになると、バスケの神様が判断しているのかもしれないと。3連覇は自分たちの実力なら当然だなんて思いません。

そして、最高の勢いでBリーグチャンピオンシップファイナルへと進みました。今年勝たずしていつ勝つのだ、という状態です。ファン・ブースターのみなさんも、関係者も、選手、スタッフ、みんなそう思っていたと思います。しかし、追いすがったものの67–71というスコアで、またもアルバルク東京に破れてしまいました。

勝ちたかったし、勝つつもりだったし、勝つことはできると思っていました。でもまだジェッツはその段階にはないんだな、鍛錬が必要なんだなという気持ちでした。
もちろん慢心していたわけではないですが、スタッフ・選手・クラブがどれだけ急成長しても、もっと謙虚に鍛錬しなければいかんのだということを改めて噛み締めましたね。リーグ制覇という大きな目標に向け、まだまだやることがたくさんあるのだと思います。

社長を退任することはすでに決めていたので、試合中は「これが最後のファイナルか」としみじみ感じていました。負けたときも、取り乱さず、冷静でした。これも人生です。

2019-2020シーズン 志半ばでの中断

新たな社長である米盛勇哉にバトンを渡し、会長に就任してからは私は黒子に徹しています。チームにも介入しないし、練習も、ロッカールームにも行きません。経営に関してもあくまでもサポートの立場でいます。とにかく"島田の匂い"は消しています。私の影がチラついたら、新社長やGMはやりづらいに決まっていますから。

見守る立場となったこのシーズンですが、選手の主軸が変わって深みにハマったような印象はありました。大野体制になってから3年間フォーカスしていたことを、選手が替わっても4年目にそのままできるかといったら、そんなに簡単ではないわけです。リーグ最高勝率、天皇杯三連覇、2年連続チャンピオンシップファイナル進出……さまざまな結果を出した次の年ということもあり、気持ちが一瞬フッと抜けたのかもしれません。

石井講祐とアキ・チェンバースが抜けた穴は大きいですが、原修太やコー・フリッピンあたりがどのタイミングで台頭してくるかという勝負だと思っていました。チームの作り直しにはそれなりに時間がかかりましたが、3年間積み上げてきた基礎力があったからこそ、チーム内での競争もいい方向にむかっていた。シーズン終盤に差し掛かり結果も出てきたし、かなりチームとして成熟してきたものを感じていたところです。

天皇杯4連覇を逃したのは悔しかったですが、このまま尻上がりに調子を上げていけば、またファイナルの舞台を踏むこともできる。次こそは……と思っていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大によってシーズン中断、終了となってしまいました。悔しさはありますし、今年のチームの100%の結末を観たかった、きっと期待に応えてくれたであろうという気持ちはありますが、こればかりは仕方がありません。


駆け足になりましたが、チームを中心に振り返ってみました。ジェッツが成長してこれたのは、私ひとりの力ではなく、みんなの努力のおかげです。そして選手たちがモチベーション高く頑張ってこれたのは、ファン・ブースターのみなさんのおかげです。本当に感謝しています。

どんな組織でも、方針をハッキリさせ、一丸となることが重要です。スポーツクラブにおいては、選手・スタッフだけでなく、ファン・スポンサー・地域など、すべてのステークホルダーが同じ方向をむくことで大きな力になるのです。そのことをずーっと教えられているなあ、としみじみ感じます。

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