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短歌

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2018年8月の記事一覧

夜からいちばん遠い夜

口をあけたままで眠っている祖母のひろがりやまぬ潮の景色は
昼すぎの雨はやまへと引きさがる父母のはいる青いやまへと
さみしいが溶けだす胸のお茶碗へ鱗をいちまい浮かべたりする
手が海に溺れて打ち上げられたあと経年はうすい皮膜のようで
ひとよりも書架へと置かれたままである性欲の失せたことばの群れが
森が整えられた肌のあわいへと溶けだしてなお水系がある
昨夜みた夢を引き止めないでおく届出書には鳩が停まって

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わたる機影は

腐葉土に指やわらかく貫かれ手放しはしないひとの名前は葬列の、消えかかる夏に意思をもつ昼の月また先の言葉は追い越した葬列を少し待つときの縒られたかたちのひとりひとりは稲穂の けけれに唱えし経文のあやとりの手の膝の冷たさ義父の聲みずを飲むごと薄くなり冷たいでしょうと母は重ねる木のなかの傾きの眠りについて耳をあてると洗われるよう真夜中にだけ露わなる庭がありそこが焦土の中心点か耳奥の隙間から終わりまでを

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