わたる機影は

腐葉土に指やわらかく貫かれ手放しはしないひとの名前は

葬列の、消えかかる夏に意思をもつ昼の月また先の言葉は

追い越した葬列を少し待つときの縒られたかたちのひとりひとりは

稲穂の けけれに唱えし経文のあやとりの手の膝の冷たさ

義父の聲みずを飲むごと薄くなり冷たいでしょうと母は重ねる

木のなかの傾きの眠りについて耳をあてると洗われるよう

真夜中にだけ露わなる庭がありそこが焦土の中心点か

耳奥の隙間から終わりまでをまたみなかったかもしれない夢を

雪を行き来し性器に触れず同調はせずにそのまま知ったのだろうか

曳かれゆく船の軌跡はうつくしくそのままぼくは抗わないさ

とめどもなく受け入れているorganの仄ひかるあまさ眠りはしない

雨のなかけぶる記憶の澱みへと伝導してゆく人影がある

右袖の裏打ちにつづく海岸の明けゆくときの雫が沁みれば

解かれた靴紐の音つかのまの床に栞のひかりが滑る

葉を落とし椅子との距離は暴かれるあるいは湖面をわたる機影は

**あまく離れてうすれるさきが落ちてゆく全身麻酔の切岸の 嗚呼 **


#短歌

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