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わたしの本棚124夜~「<あの絵>の前で」

 原田マハさんの小説が好きです。美術の知識に裏打ちされた作品は、小説を読む楽しさとともに、絵画を知り、絵の作者を知り、行間から豊穣な作品世界を教えてくれます。この本は、6枚の絵に因む物語です。それは、帯にあるように、人生の脇道に佇む人々が<あの絵>と出合い、再び動き出す。どこかの街の美術館で、小さな奇跡が今日も、きっと起こる、そんな6編の市井の人びとの物語でした。史実に基づいた「デトロイト美術館の奇跡」も感動しましたが、この6編の物語の小さな奇跡も心を温めてくれました。

☆<あの絵>のまえで 原田マハ著 幻冬舎 1400円+税

1.「トービニーの庭」 ゴッホ ひろしま美術館蔵

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基本的に6編とも、所蔵する美術館の土地に住む人たちの物語です。第一話「ハッピー・バースデイ」は、広島に生まれ育った夏花が、東京の大学に通い、就職活動に苦労する話です。東京に生まれ、力のある両親の元に生まれた友人の亜季と違って、母子家庭で育った夏花にとって、就職活動は困難をきわめます。学芸員になる夢をあきらめかけたとき、毎年、8月6日の誕生日を広島で過ごしたことを思いだし、就職活動中にもかかわらず、帰省する話です。広島弁とお好み焼き屋さんで働く夏花のお母さんの優しさが、じんわりと元気をくれました。気が付くと、泣いていました。

2.「鳥籠」 ピカソ  大原美術館蔵

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「窓辺の小鳥たち」は、私(詩帆)の相棒なっしーこと小鳥遊音叉との話です。県会議員の父をもち、保守的な専業主婦の母親の元で育った私は、東京の難関大学を卒業し大手広告代理店に就職するも、岡山の高校時代から付き合っているなっしーと同棲しています。190センチの巨漢で不器用ななっしーは、ギタリストになる夢を持ちつつ、すかいらーくでアルバイトしています。なっしー、がんばれ!と、応援せずにはいられないキャラクターで、「かごの中にいるわけじゃない。自由に飛んでいけるんだ、って」それぞれに飛んで、もう一度、同じ窓辺に帰ろう。若い二人の決断にエールを送りたくなる小説でした。

3.「砂糖壺、梨とテーブルクロス」 セザンヌ ポーラ美術館蔵

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 「檸檬」は、強烈な話でした。連城三紀彦氏の「宵待草夜情」を思いだしました。地味な性格の私(岡島)は、架空のモウさんの声に励まされながら生きています。高校時代、美術部であり、そこで起こったこと、憧れの清川先輩の妬みによる仕打ちに心の傷を負っており、それ以来、絵筆を捨てました。そんな私が、通勤電車の中で見つけた、同じ高校の制服を着た少女に導かれるように箱根のポーラ美術館に行き、セザンヌの絵と対話しながら、今度こそ絵をかきあげよう、と思う物語です。妬みが形で残るものとして、キャンパスに描かれてしまった衝撃、そして再生へ。今度こそ、描いてほしいと願ってしまいました。

4.「オイゲニア・プリマフェージュの肖像」 クリムト 豊田市美術館蔵

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 「豊穣」は面白く、何度か笑いながら泣いて、最後にちょっとほっこりしました。主人公亜衣ちゃんは、先日観た映画、吉野竜平監督「君は永遠にそいつらより若い」の主人公ホリガイを彷彿させる女性でした。小説家をめざすも書けず、ネットのレビューを書いて、ライターをしています。菅沼さんというお婆さんが隣に引っ越してきたことから、起こる交流。毎日の些細な出来事に感動する日々。ラストのオチも、なるほどと思いました。クリムトの絵の煌びやかさが眩しいはずなのに、読後に観ると、なぜか、待っていてくれる、と絵に温かさを感じました。

5、「白馬の森」 東山魁夷 長野県信濃美術館蔵

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「聖夜」という題名、心臓病疾患を持って生まれたこどもの名前が誠也という設定からして、筋が読めそうな展開で、案の定、涙あふれる作品でした。唯一の日本人画家の作品であり、その幻想的な絵は、冬山登山という話の内容にもあっていて、涙なしでは読めない作品でした。

6、「睡蓮」 モネ 地中美術館蔵

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 第6話「さざなみ」は、瀬戸内海の直島、地中美術館に行きたくなる小説です。こういう奇跡も起こるかもしれない、と。あなたが「睡蓮」を見ている姿を、まるで夢の続きのように見ていました、と誰かが見てくれているかもしれないです。一枚の絵が、その人の人生の少しの時間に関わり、けれど、勇気づけ、元気にしてくれる。島の人々、民宿の人々の優しさも嬉しい小説でした。


6編の小説とも読後、優しさに包まれ、前を向けそうになります。いろいろあるけれど、生きていかなくちゃ・・・と思ってしまいます。いろんな境遇の主人公のがんばりに勇気づけられ、絵に癒されます。コロナ禍で、直接美術館に行って絵に会うことは難しいけれど、原田マハさんの小説とネットの絵から想像できる世界、それは、温かくって、大きく広がっていき、生きること励ましてくれています。

*最後に、写真を載せるのが(スマホの扱い)下手なので、それぞれの絵はネットから借りました。ネットで借りたところを記します。

☆トビーニーの庭・Wikipedia ☆鳥籠・amazon.co.jp ☆砂糖壺、梨とテーブルクロス・polamuseum.or.jp  ☆オイゲニア・プリマージュの肖像・g-iskra.co.jp ☆白馬の森・bijutufan.com ☆睡蓮  Wikipedia.ja.wikipedia.org

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