私の青春ときのこ帝国
私の青春は不幸だった。不幸だから幸せだった。その時私はきのこ帝国と生きていた。
初めてきのこ帝国を知ったのは、装苑という雑誌で見た時だった。ビジュアルから惹かれた。飾り気がなくさっぱりしているから逆にオシャレに見えるバンドだった。
一番最初に聞いた曲はクロノスタシスだった。PVでは夜中に街を一人で歩くボーカルの佐藤千亜妃の姿とその道中に現れる他のメンバーのあーちゃん、西村、谷口の姿が映される。夜の闇の中、ぼんやりとした光が現れては消える。歌詞の内容は「君との夜の散歩が儚くて幸せだ」のような感じだ。私は佐藤千亜妃の歌声と歌詞に引き込まれた。どこか悲しい、切ないところがあった。私はちょうど大学受験で成績が伸びず、高校に友達が一人しかおらず辛かったため、きのこ帝国にしがみつくような思いだった。
大学受験が終わり、私は干からびて疲れ果て、自分の実力に絶望した。結果は惨敗だった。ひりひりした心を癒してくれるのはきのこ帝国だった。あいつを殺したいという狂気に満ちた「春と修羅」、消えてやりたいという「ヴァージン・スーサイド」。きのこ帝国はネガティブな曲で、私の心に寄り添ってくれた。毎日生きるのが精一杯な時、生きているんだと思わせてくれた。
きのこ帝国はだんだん温かい歌詞になっていった。一部のファンら昔の暗い方がいいと言っていたが、私は温かいきのこ帝国にも救われた。ネガティブな感情をある程度感じきったのだと思う。「怪獣の腕の中」などそんな相手はいないのにポカポカした気持ちになった。
幸せになってもいいんだよと言われた気がした。
その後きのこ帝国は私が就活で苦しんでいる時期に無期限活動休止になった。
永遠なものはない。けれど、私の暗い青春の中、街頭のように照らしてくれたきのこ帝国の時間は永遠にあり続けるんじゃないかと思う。
きのこ帝国が活動休止した後も私は悲しいことがたくさんあった。絶望もした。それでも生き続けた。それはきのこ帝国がかつての私に与えてくれたもののおかげな気がする。
私の青春、それはきのこ帝国だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?