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半分ろうそく【毎週ショートショートnote】

うわっ、たまご買っとかなきゃ。

ふたり分のオムライスで4個使ったら、残りは4個。

どんなものでも、残りが半分を切ると不安になって、心臓がバクバクして息が苦しくなる。

呼吸を整えて、どうにかオムライスを仕上げた。

「うわっ、美味しそう。オムライス大好物なんです」

「ごめんね、お誕生日なのに、こんなものしか作れなくて」

後輩の翔くんが、誕生日なのに残業で、家に帰ってもひとりだとぼやくので、私の家で即席バースデーパーティーをすることになった。

結婚してよかったことは、手抜き料理が超速で作れるようになったこと。

離婚してよかったことは、思いつきで家に人を呼べること。

先週40になったので、私の残りの人生もおそらく半分を切った。

だから、翔くんみたいな若い子には、相手にもされないので、気が楽だ。

「ご馳走さま。すごく美味しかったです」

「じゃ、ケーキ食べよっか。ろうそく探すね」

停電用のろうそくを探すと、使いかけの半分のろうそくしかない。

ちゃんと買い置きしとかなかったんだ…頭がぐらぐらして、息が苦しくなって、その場にしゃがみこむ。

「真奈美さん…大丈夫?」

翔くんに、後ろからぎゅっと抱きしめられて、頭を撫でられて、少し落ち着いたら、涙が溢れてきた。

「ろうそく…半分しか残ってない…」

別れた夫には、日用品が残り半分を切っているのに買い置きがないと、ひどく詰られて、何日も無視された。

いつまでフラッシュバックに苦しめられるのか。

「半分も、残ってるんだから大丈夫」

唇に柔らかいものが触れ、すぐに離れる。

「俺、真奈美さんのこと、好きです」

「そんな…余生も半分しか残ってないおばさんなのに」

「それを言うなら、まだ半分も残ってる、でしょ。ね、俺じゃだめかな?」

胸の半分ろうそくに、小さな火が灯る。
                  (了)

たらはかに様の企画に参加させていただきました。


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