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“親父も恋人も本当の友人も安定とか望むけど”〜絶頂期のアルバム「勝負師(ギャンブラー)」

1995年11月22日発売。
シャ乱Q「勝負師(ギャンブラー)」

1.さんざん言ってんだぜ
2.ドラマティックに -'90 DREAM-
3.Good-bye ダーリン
4.ズルい女
5.DA DA DA
6.空を見なよ
7.ROBERT
8.俺のこと愛せないとしても
9.SANAFE
10.ピエロ
11.今すぐ逢いたい

あるバンドが絶頂期にいるというのを具現化したかのようなアルバム。
収録シングルは代表曲のひとつと言える「ズルい女」と「空を見なよ」。

1.さんざん言ってんだぜ
作詞:つんく 作曲:しゅう 編曲:シャ乱Q
つんくとはたけに続く”第三の男”しゅう作曲のファンクナンバー。
こういったアップテンポでもキャッチーでもない、聴く人を選ぶ可能性すらある曲を先頭に持って来るというのは自信や充実度の表れだろう。たいせーのエレピソロも出色。ワウやトレモロといった揺れものエフェクターを駆使したギターによる場面転換、パーカッションの小技も効いている。

2.ドラマティックに -'90 DREAM-
作詞:まこと 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
付点ディレイとパームミュートをかけたギター・アルペジオのイントロからから頭サビに雪崩れ込む。はたけ作のその名の通りドラマティックなミドルテンポのメロディに、まことのイケイケな歌詞がハマっている。本作からの2枚目のシングル「空を見なよ」もまこと/はたけペアの作だが、こちらの方がまさしく”ドラマティック”な構成でシングルっぽく感じてしまう。当時クイズ番組SHOW by ショーバイのタイアップもあり。Aメロの「暗い時代」という歌詞は震災やオウム事件といった95年の世相の反映か。

3.Good-bye ダーリン
作詞:つんく 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
シングルベッドと同じ、つんく作詞はたけ作曲。シンコペーションの多いBメロをはじめ、まことのモタモタバタバタしたドラムが活きている。盛り上がってくるとハイハットが開き気味になるのは手癖なのかな。この曲らへんから、つんくの「アゥッ!」というシャウトが癖になり始める。「お前にもらったカセット聴きながら遠回り」。

4.ズルい女
作詞・作曲:つんく/編曲:たいせー&シャ乱Q/ホーン・アレンジ:森宣之

しっかりテンション上がりきったところであの印象的な管楽器のイントロ。クラリネットははたけの演奏。ようやくつんく作品が登場。この曲だけ編曲のクレジットが、たいせー&シャ乱Q/ホーン・アレンジ:森宣之。アレンジのおおもとをたいせーが作ったということなのか?SEの駆使や後半での倍テンポなど色々凝ってる。レコ大で編曲賞受賞。

5.DA DA DA
作詞・作曲:つんく 編曲:シャ乱Q
シングルヒット曲の後のスローテンポなクールダウン。ミスチルで言えば「innocent world」の次曲に「クラスメイト」が来るような。スピッツで言えば「ロビンソン」の後に「Y」が来るような。ズルい女に続き、これもつんくの詞曲。「なぜそんなガンバっているか なんてさ 考えても いきつくのは 女がいるからさ」という身も蓋もない歌詞、アルバムはおろか、シャ乱Qの歌詞の世界観を象徴しているのでは。

6.空を見なよ
作詞:まこと 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q

すっと場面を切り替えるように爽やかなシングル。レコードでいうB面の頭のような。ピアノのバッキングにクリーントーンのアルペジオのフォークロック。自曲でも長いソロを弾くでもなくツボを押さえたはたけのプレイには、コンポーザー/アレンジャー寄りな気質を感じる。こういった曲調に、つんくの粘っこい歌唱が意外とハマる。劇空間プロ野球テーマ曲。

7.ROBERT

作詞:つんく・まこと 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
ブルージーなAメロからずっとバッキングを刻む鍵盤はノコギリ波のシンセ?クラヴィネット?ダルな空気に意外に馴染んでいる。
歌詞はつんく・まことの共作だけど、「親父も恋人も本当の友人も安定とか望むけど」というアルバムタイトルに繋がる歌詞はどちらが書いたのだろうか。

8.俺のこと愛せないとしても
作詞:まこと 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
2曲目、7曲目といいこの曲といい、男くさい合いの手のようなコーラスがスマートになりきらない雰囲気に一役買っている。
ラテン調のシャッフルビート、シャ乱Q流アダルト・コンテンポラリーとでもいうか。このアルバム自体、意外とハネたビートの曲が多い。
パーカッシブさを残しつつ風のようなハモンドオルガンソロが良い。

9.SANAFE

作詞:つんく 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
アルバム中で異彩を放つピアノバラード。作曲者のたいせーの趣味全開ということなのか。後半に向けてかなりいいアクセントになっている。意外と、はたけはこの曲が一番泣きメロのハードなソロを弾いてるような。


10.ピエロ
作詞・作曲:つんく 編曲:シャ乱Q
耽美的なシンセストリングスとディトーションギターの仰々しいサウンドをバックに描かれる冷めた男、つんくの歌詞のキレよ。
「笑われてなじられて もっといい男になる 今は俺を笑えばいい」って最高のパンチライン。
95、6年のミナミのカラオケボックスでこの曲をがなった奴らも何人もいたんじゃないか。コンパの後とかに。

11.今すぐ逢いたい
作詞:つんく 作曲:はたけ 編曲:シャ乱Q
重くシンプルなパワーコードのリフに乗って延々つんくが唸る。ツェッペリンあたりを意識してるのか?ドラムの音色の軽さが気になりつつ、この癖がまことの持ち味とも思う。
で、一貫してキュルキュル鳴り続けるシンセは、鍵盤というより、ずっとツマミいじってるのでは。たいせーのプレイがアレンジに奥行きを与えている場面は多い。

曲順、構成について。
ビートルズ好きのつんくは名盤”Revolver”意識してたのでは?第三の男ジョージが冒頭のTaxmanから気を吐く、最高傑作として度々挙げられる名盤。
各曲のクオリティが高ければ、派手な仕掛けなどなくても飽きさせず聴かせられるのだと。

と、同時にこんな発言もある。

つんく小さい頃に聴いてた音楽をもう1回聴いたりして、「ああ、これはこうだからきっと売れたんだ」とか、かっこいいと思ってたアイドルと、可愛いけど音楽はしょうもないなって思うアイドルの差とか、「シャ乱Qの1枚目、2枚目とミスチルはどこが違うのか」とか、「スピッツはなぜわざわざ詞がとりあげられるバンドなのか?」とか、同期たちの曲は研究もしたし、FMでかかってる音楽とかも分析しました。

ズバリ、ミスチル。

これ以外のインタビューでも度々出てくるが、つんくはとてもミスチルを意識している。
前年1994年9月1日発売のMr.Children「Atomic Heart」のSEを除いた実質的な1曲目「Dance, Dance, Dance」も「さんざん言ってんだぜ」同様に抑制の効いた傑作ファンクナンバーだった。
アルバム前半の流れは参考にしてるんじゃないかと思われるほど相似形あり。
4曲目に大ヒットシングル(ミスチルはinnocent world、シャ乱Qはズルい女)、5曲目にミドル〜スローテンポのメロディの高揚も抑えめな曲を置き、6曲目にまたシングル(Cross Road、空を見なよ)、など。

今日で発売から丸28年。
今年もたくさん聴いたアルバム。

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