春は朧
春が苦手だ。嫌悪、憎悪、拒絶の類い、桜花の咲く前に決まって不安定になる精神と扁桃腺が、無意識に、或いは意識的に季節を拒んでいる。明るい季節はどうしたっておれを責める。嘲るように迫り立てる。始まりを慶べるのは始める者だけ、おれだけが、おれだけは薄暗い冬の名残に座り込んでいる。立ち上がりもせず、見ないふりをしてやり過ごす、酷く、間違っているみたいだ、近くにあったと思い込んでいたものが、ぺりと剥がれて燦然と遠くへ、残された汚ねえこころにまた、ずし、と汚ねえ錘が積もる。今更涙も出ません、伸し掛るのは嫉妬、焦燥、そして諦観、噫、これがどうせおれの人生の凡て。
変化を望まないのは、そんなにおかしなことですか。
おのれの生きることを許せなくて、未来を諦めて、だからなりたいものもやりたいこともぜんぶ焼いて棄ててしまいました。上昇志向も生への執着もない、夢中になれるものがあっていいね、は皮肉ですか、おれはいたいけな女の子の夢に縋ることでしか、おのれのいのちを赦せない、なあ、宛ら異常者であれ、きみからみれば。みな目まぐるしく努力し、闘い、愛し、変わっていく世界の殆ど最中でおれは、立ち止まってぼうと指を銜えている。がんばること、たたかうこと、あいすること、いきること、なんにも、なんにも判らないんです。自分だけが変わらないので、変わったふうに見られている、おれの若さは、唯、無知と無気力である。むなしいばかり、なにかが終わるたび、始まるたび、虚しさが噛みついてくるので血を流すふりをする、傷ついたなんて気取ってみる、寂しい、と、自分への苛立ち、嫌悪だけがほんとう。変わりたくない。変わらなければならないのに、いい加減大人にならなければならないのに、17のおれが10年経ってもいじけたままおれを縛る。おとなになる前に死んでしまえばよかった。愛も知らず高慢なうちに、崇高ぶって死んでおけば。酷く惨めだ、おとななんて、ひどく惨めだ。ひとりぼっちのふり。くそったれ、夜が明けなければ春は来ないのに。
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