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葬式

  10月の終わり、僕は黒いスーツに身を包んで、肌寒いからコートを羽織って、久しぶりに引っ張り出した革靴を履いている。


  雨の降る葬儀場の石畳は、しっとりと濡れていて、反射した参列者が歪んで見える。僕は
、その道をパシャパシャと歩いて行く。



 4年付き合った彼女が死んだ。

 肌寒くなった朝に、冷たくなって死んだ。




「この度はお悔やみ申し上げます。」


  

  受付を済ませて、テンプレのように言葉を吐く。一体こんなお決まりの言葉で、ほんとに気持ちなど伝わるのだろうか。


  向かいの傘の群れは、噂話に花を咲かせて、葬式なぞそっちのけ。僕の彼女が、殺されただとか、自殺じゃないだとか。ゴシップネタだけは、耳が早い有象無象。


  僕は、この人種が不快で仕方ない。


  冷たくなった手を擦りながら、式場へ入る。
すすり泣く遺族に挨拶を済ませて、線香を焚く。白檀の香りが鼻をぬける。


  棺桶からは、今にも起きそうな程に綺麗な、でも冷たさを感じる白い彼女が、横たわっていた。


  顔が歪む。胸を掴まれるような圧迫感。後悔の念。


  もう誰もいないけど、家に帰らなくちゃ。強く生きていかなきゃいけない。これ以上見たら壊れてしまう。


  どこか遠くへ行こう。誰もいない。


  どこか遠くに。


  あ、そうだ。


  忘れてた。

あれ捨てなきゃ。






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