足湯ものがたり
散歩コースのひとつに、観光温泉所の足湯場がある。
歩いて30分ほどの、ほどよい場所にあるので、往復で1時間、足湯に30分と、所要時間的にも、なかなかよい。
帰り道は、足だけでなく、体中がポッカポカになり、足取りも軽く感じ、最後ののぼりの急坂も、がんばろうって思える。
いや。
嘘である。
やっぱり、急坂はしんどい。
それでも、行ってみたくなる足湯場は、やっぱり癒し効果大なんだと思う。
昨日も、足湯に行ってきた。
日曜日だったので、家族連れが何組もいて、平日よりも、平均年齢がぐんと下がっていた。
中には、1歳くらいの赤ちゃんもいて、
足先をつけてはみるも、すぐに飽きて、あ~~~んとやっている。
両親は、もうちょっと入っていたいオーラがものすごいんやけど、
しかたなく、シブシブって音が聞こえそうなくらい、残念そうにタオルで足を拭いていた。
そうやなあ。
気持ちいいもんなあ。
でも、もう少ししたら、一緒に楽しめるようになるからね。
他に、小学生男子3兄弟とご両親というファミリーもいた。
お母さんは、ちょっと色っぽくて、ゆっくりしゃべる系。
お父さんは、お団子ヘアに、スエットウエアのいかつい系。
3兄弟は、並んで座りながら、つねに、何かしら小競り合いをしている。
言い合いをしたり、押しあったり、湯につけた足を互いに蹴ったり、まあ、小学生男子らしくしていた。
と、小競り合いの力加減がうまくいかず、2番目の男の子が、バシャンと湯の中に落ちてしまった。
足湯なのに、温泉になってしまった。
あっ!!
お向かいに座っていた私は、当然お湯しぶきにまみれる。
は~~。
でも、小学生男子のあるあるってことで、しゃあないなあと思っていると、色っぽいお母さんが、すぐさま
「すみません。」
と、頭を下げてこられた。
(関係ないけど、この「すみません」も、いろっぽかったわ。)
そして、温泉男子も、慌てて、私にぺこりと頭を下げる。
「いえいえ。」
と、こちらも頭をペコっとする。
気になったのは、温泉男子は、ぺこりとしながらも、私の方は一切見ない。
いや、落ちた瞬間から、顔は、お父さんの方を向いたまま。
ぺこりとしながらも、お父さんからは、目を離さない。
ぺこりの後も、お父さんをみたまま、そうっと椅子に座り直す。
いかつい系の見た目のお父さんは、ほんまにいかついんかもしれへんなあ。
そこからは、小競り合いもなくなり、いかつい&いろっぽいファミリーは、静かに去っていった。
次に、私のお向かいに現れたのは、小学生男子二人とそのお父さんである。
こちらは、身体は大きいけど、いかつくないお父さん。
子どもたちも、穏やかな表情で、おっとりした感じ。
小競り合いもまったくない。
ただ、お父さんがずっとしゃべっている。
子どもたちは、その話を聞いてはいるが、特に反応もなく、ラジオを聴いているような雰囲気である。
そのお父さんは、足湯に足をつけた瞬間に
「うわ~~。気持ちええなあ。
毎日入りたくなるなあ。
そうや。お前、毎日、学校の帰りにここに来たらええねん。
ほんで、ほら、そこにテーブルあるやろ。
(ちなみに、足湯場に併設のカフェのテーブルのこと。)
あそこで、宿題したらええねん。
なっ。そうしたらええねん。」
と、兄の方に提案していた。
兄が、何の返事もしないので、今度は弟に向かって、
「なあなあ。ここに、ドクターフィッシュがおったら、楽しいと思わへん?
足つるつるになるやん。
今度、ママも連れてこなあかんなあ。
なあ。」
と、意見の賛同を求めていた。
弟の方も、何の返事もしないので、お父さんは、キョロキョロとあたりを見回して、
「あっ。あそこ。」
と言いながら、隣のスペースに移動し始める。
「ほら見てみ。
ここから、お湯が出てるわ。
ボコボコ言うてるやろ。すごいなあ。
なあ、こっちに入ってみよ。
ほら。
please come here」
と、突然英語で、二人の息子を呼ぶ。
息子たちは、嫌がるでもなく、ふ~ん。そうなん?って感じで、ラジオの公開収録で急にインタビューされた人のように、ちょっとためらいがちに動き出す。
そんな息子たちがそばに来るまで待てなかったお父さんは、先に、ボコボコのところに足をつけてみた。
はりきっているので、勢いよく、ざぶんざぶんと足をつっこみ、その瞬間、
あっつ~~~~~
と、絶叫して飛び出していた。
そんな絶叫父さんの姿に動揺することなく、二人の息子は、ゆっくりとボコボコに足をつけていた。
そして、気持ちよさそうに、目を細めていた。
足湯をしに行っただけやけど、映画の予告編を、いくつも見ているみたいやった。
この続きは、どうなるんやろう。
温泉男子は、あの後、いかつい系お父さんに、なにか言われたんやろか。
やんちゃそうな子やのに、彼なりに、気を遣ってるんやなあ。
ボコボコ父さんの息子たちは、たぶん、何でもまずは様子を見てから取り掛かるタイプに育つんやろうなあ。
あんな面白くて、楽しい反面教師が、そばにおるんやもんなあ。
ほんと、予告編だけしか見られへんのは、残念やわ。