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雪と缶コーヒー

 パスタ屋の店長をしていた頃、仕事中に雪が降り始め、あれよという間に五センチほども積もった。
 それからシフトを終えて、帰る準備を整えても、雪が止まない。
 暫くバックヤードでバイトと喋っていたら、坂田が「やばいです」と言って来た。
「もう十センチぐらい積もってますよ。店長、もう今日は店に泊まりませんか? 酒もあるし」
 坂田は何だか楽しそうだった。
「絶対に帰る」

 車はノーマルタイヤで、チェーンも持っていない。平坦な道を選んでゆっくり帰ったら、駐車場にもどっさり積もっていた。入口は一メートルほどの斜面で、そこにもやっぱり積もっている。これでは駐車場にも入れない。

 仕方がないから近くのコンビニで缶コーヒーを買い、レジで店主に「スコップを貸してもらえませんか」と頼んでみた。
 店主は「うちはスコップがないんですよ」と、申し訳無さそうな顔をした。
 手ぶらだと頼みにくいからコーヒーを買ったので、別段飲みたかったわけではない。だからといって、もう支払いが終わったものを「スコップが無いなら、返すよ」とは云いにくい。
「だからほら、ああやって箒で雪掻きしてるんです」 
 店の駐車場では、バイトが箒で雪を退かしていた。

 雪は一向降り止まなかった。
 車の中で甘いコーヒーを飲みながら段々雪に埋もれていると、非常事態なのに何だか心地良く思えてきた。
 見渡すと、埋もれて動けなくなった車が数台、路肩へ放置されている。
 とりあえずコンビニの外へ車を出して、自分もそこから歩いて帰った。

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