記憶と万年筆 〜縁と消息〜

 十数年前、万年筆の面白さに目覚めた。それからハマっていく過程で、今度のボーナスで値段が5桁のペンを買ってみようかどうしようかと迷っている、と誰にともなくツイートしたら、「買えばいいじゃない」と背中を押してくれる人があった。
 それでその気になって、名古屋の丸善で買った。その頃の丸善は広小路通沿いにあって、昭和の匂いが残る古い店舗だった。ここで万年筆を買うということが、何だか古めかしい儀式のように感ぜられたのを覚えている。

 国内大手メーカー――パイロット、プラチナ、セーラー――から選ぶことは、店に行く前から決めていた。
 この内、パイロット社はクリップの先に玉が付いているのが面白くないから脚下した。プラチナ社は当時コンバーターの評判が良くなかったからよした。そうして結局、セーラー社の “プロフェッショナルギア21” を選んだ。
 何だかコリッとしたようなビヨンとしたような、硬いのか柔らかいのか判然としない不思議な書き味で面白い。見た目が仰々しいから外ではなく主に家で、今も使っている。

 背中を押してくれた人とは、これがきっかけでお互いのブログを行来するようになった。
 その人は万年筆で書いた文をスキャンしてブログに掲載していた。今で謂う “手書きツイート” だ。当時はまだそんなことをする人はあんまりいなかったから、その界隈でなかなかの人気ブログだった。

 それから程なく、先方の更新が止まった。病気で字が書けなくなったと聞いた。
 その後のことはわからない。息災であってほしいと思っている。


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百裕(ひゃく・ひろし)
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