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ねぶた、サウナ

 居合の道場に通っていた頃、同じ門下生に阿川さんがいた。阿川さんは東北から来た人で、目がぎょろりとして青森のねぶたみたいな面立ちだった。
 同い年だったが、自分の方が一年ぐらい先輩だったからレクチャーする機会が度々あった。阿川さんはその度にきちんと頭を下げて「ありがとうございました」と言う。何事もしっかり筋道を立てる、真面目な人物のように見受けられた。

 ある時、阿川さんが夢に出てきた。
 自分達は軍隊にいて、同じチームのメンバーだった。阿川さんは随分軍服が似合っていた。
 どういう理由だったか判然しないけれど、自分らのチームが失態をやらかして処刑されることになり、大きなオーブンへ入れられた。
 他のチームの者が並んで見ている前で自分らはオーブンに入り、蓋がゆっくり閉められた。入るまでは特にどうとも思わなかったが、蓋が閉まってグオーンという音がしだしたら途端に怖くなった。
 阿川さんは目を閉じて、蓋の前で座禅を組んでいる。一体、何という潔い人物かと感心した。
 こちらはそれどころではないから、熱くなる前に他のメンバーと一緒に蓋を蹴り破って脱出した。

 それ以来、スーパー銭湯へ行ってもサウナに入ろうと思わない。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。