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参詣、灯り

 夕方になって、宿からお詣りに行った。
 歩いて行くことにしたら、思ったより遠かった。途中で引き返そうかとも思ったけれど、もう少し行ってみようと歩くうちに到着した。辺りはもう薄暗くなっていた。随分疲れたから、土産屋で団子を食った。
 それから境内へ入って拝殿へ向かおうとすると、警備員がやって来て「今日はもう終わりですよ」と言う。
「今来たばっかりなんで、ちょっとだけ待ってもらえんですか?」
「日が暮れてからのお詣りは神様に失礼だから、お断りするように云われてるんです」
 警備員は気の毒そうにそう言った。恐らくシルバー雇用で、勝手なことはできないのだろう。
 他にも何人か参拝客がいたのを、全員に声をかけて外へ案内し始めた。彼が懐中電灯で足元を照らしてくれる以外に灯りはない。
「う〜わ、真っ暗だね」というような声がいくらか聞こえ、スマホで照らす人もあった。
 みんなで坂道を下って、石段を下った。

 それから先導されるまま、入口にある土産屋へ入った。店の中を通る他には道がないらしい。
 店内はまだ明るかったけれど、もう閉店作業にかかっていて、売物には網が被せてある。イワナの干物が積まれているのが目についた。
 店を出ると周りは田んぼばかりで街灯はない。ひっそりして、完全に真っ暗だった。
 他の客らはめいめいにスマホを照明にして歩き始めた。自分と同じ方角へ進む人はいないらしかった。
 自分は、これからの道のりを思ってうんざりした。

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