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恥ずかしい争い、不吉なヴィジョン

 小三の時にガンダムが流行りだした。
 特にプラモデルの人気が高くて、どこの店もすぐに売り切れる。そのうちに、どこそこの店は水曜日に入荷するといったような情報が流れ始めたけれど、あんまり当てにはならない。
 300円のと700円のがあって、小学生の小遣いだとなかなか700円の方には手が出せない。たまに見つけても700円の方だったりして、幾度か随分口惜しい思いをした。

 ある時、学校で友達3人が何だかヒソヒソ話をしているので、寄って行ったら「百君はちょっとあっち行っとって」とシャットアウトされた。
 どうやら自分の誕生日プレゼントの話をしているらしいと察してしばらく我慢していたけれど、あんまり長いものだからこちらもジリジリしてきた。
「もうええじゃろ? 遊ぼうで」と行くと「まだだめ」と言われる。それを何度か繰り返して、とうとうケンカになった。
 自分の誕生日プレゼントの相談をしてくれている友達とケンカをするのだから意味がわからない。学級会議の議題になって、中には擁護してくれる声もあったが、普通に考えてこちらが悪いのに違いない。友達にはその場で詫びて仲直りをした。
 そうして誕生日当日に彼らがくれたのは、700円のガンダムプラモだった。
 思い出しても恥ずかしい。

 ガンダムの玩具はプラモデルの他に超合金や消しゴム人形も売られていたが、子供の目から見てもあんまり出来の良いものではなかった。
 ある時、家族で買い物に出かけた際にガンダムの鉛フィギュアを買ってもらった。
箱にウレタンを詰めた梱包で随分立派に見えたけれど、フィギュア自体はやっぱりあんまり出来が良くない。消しゴム人形と同じ型を使っているようだった。
 その帰りに、ロードサイドに新しくできたファミリーレストランへ入った。
 それまで外食といえばデパートの食堂で、ファミリーレストランへ入ったのはこれが初めてだったと記憶している。ステーキを食べたように思うが、昔のことだからさすがに判然しない。
 食事中、爆弾が落ちてきて窓ガラスが飛び散り、自分たちも吹き飛ばされるというイメージがなぜだか頭に浮かんで来てちっとも美味しくなかった。

 鉛フィギュアは学校へ行く時にこっそりポケットに入れてお守りのように持ち歩いたけれど、じきに飽きてどこかへやってしまった。

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