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最後のこと

 昨日から帰省している。いつもnoteに書くので昔の記憶を掘り返しているけれど、実際に帰って来るとやっぱり違った心持ちになる。

 町の外れに水源池があって、ブルーギルがいたので、よく釣りに行った。見たことはないが、ブラックバスもいたんじゃないかと思う。
 小学校の遠足でも一度行った。
 昼食後、トンビが弱った魚を捕らえに降りて来たのを見て、随分大きなものだと感心した。あんなに大きいのでは、小林の年端もいかぬ弟が頭を鷲掴みされたという話も、あながち嘘ではないように思われた。弟はそのままどこかへ連れ去られ、二度と帰って来なかったそうだ。
 もっとも、小林の弟はハゲワシに連れて行かれたと聞いた。ハゲワシならますます大きいのに違いないが、日本にいるかは疑問である。
 小林は幼稚園と小学校で一緒だった。中学でも最初は見かけたが、いつの間にかいなくなっていた。事によると彼もハゲワシに連れ去られたのかも知れない。そう考えると、不思議な気がする。

 中二の時、不意にブルーギルを釣りたくなって、一人で水源池へ行った。
 水源池はフェンスで囲われ、周りは茂みになっている。本当は無断立入禁止なのだけれど、フェンスの破れている所があって、自分らはいつもそこから入っていた。
 その茂みの前に、この日は車が停まっていた。白いセダンで、運転席には知らないおじさんが乗っている。
 隙間から入ると、茂みの中から急にパンツをおろしたおばさんが中腰で駆け出した。
「!」
 自分も驚いたが、おばさんもやっぱり驚いたような様子で、中腰のまま車の向うへ駆け込んだ。
 きっと移動中に小だか大だかが我慢できなくなり、やむを得ず茂みで済ませようとしたところへ自分が入ったものだから、驚いて逃げたのだろう。車にいたのは旦那に違いない。そう考えたら得心がいった。
 しかし、用は済んだのだろうか、ちゃんと拭いたのだろうか。あんまり焦っていたようなので、そんなことが心配になった。

 何匹か釣った後で、雨が降り出した。そんなにひどい雨ではなく、頭の上に木が茂っているからあんまり濡れなかった。そのまま雨宿りをして、じきに止んだところを見計らって帰った。
 自分が釣りに行ったのは、これが最後である。


よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。