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気づいたら、いなかった

 小1の時に転校生が来た。
 先生が「新しいお友達です」と言って黒板に「さえだのりふみ」——仮名——と名前を書いた。くっつけて書かれたものだから、最初は「さえだの・りふみ」だと思った。「りふみ」とは珍しい名前だなと感心したが、実際は「さえだ・のりふみ」だと段々わかった。

 さえだとはあんまり趣味が合う感じではなかったけれど、存外一緒に遊んだ覚えがある。彼の家では庭に小屋を作ってうさぎを飼っていた。

 一度、さえだのお父さんに連れられて、近くの山へ何かの葉っぱを採りに行った。自分が転んで膝を擦りむいたものだから、「これ貼っといたらええよ」と、採った葉っぱを貼ってくれた。ありがたい反面、何だか気になってしようがなかったのを覚えている。そのうちにぺろんと剥がれ落ちて、そのままにしておいた。
 それからさえだのお母さんが作ったあんこ餅をいただいた。採ってきた葉っぱで包んであったから、あの葉っぱは柏だったのだろう。傷に貼ったのも得心がいく。

 ある時、家の前で遊んでいたら、「何しよんね?」と言って、さえだのお姉さんが出てきた。お姉さんは年が二つぐらい上で、きれいな顔立ちをしていた。
 一緒に遊ぶのかと思ったら、お母さんが「あんた、何しよんね。中におりんさい」と連れ戻した。身体が弱くて、学校も休みがちだったのだそうだ。

 小2からは一緒に遊ぶこともあんまりなくなって、気が付いたら見かけなくなっていた。小4までは確かにいたが、中学校にはきっといなかった。
 お姉さんが亡くなったそうだと母から聞いた。きっと小4から小6の間に不幸があって、それから引っ越したのだろう。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。