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無精髭との戦い

 先日、網膜剥離の経過観察で眼科へ行ったら、やっぱり混んでいた。待合室に二十席ぐらいあるのが全部塞がって、立って待つ人も数人ある。
 立っている中に、髪を伸ばして後ろで括ったおじさんがいた。歳の頃は自分と同じか、もう少し上かも知れない。余計なお世話は重々承知だが、何だか見た目に小汚い。きっと髪型のせいだろうと、一人で得心した。
 自分も学生時代は長髪ヘビメタだったけれど、こんなに小汚くはなかったはずだ。と思うのは自分のことだからで、傍目にはやっぱり小汚かったに違いない。

 全体、あの時分には髪のおかげでバイト探しに随分苦労をした。
 当時はコンビニとレンタルビデオ屋のバイトがそういう風貌の受け入れ先だったのに、そこすら断られたぐらいだったから、ことによると何か、髪型以外にも余程な問題があったのかも知れない。

 ある時、木寺に誘われて、一緒にバイトの面接を受けた。
 先方は、まさか小汚い長髪が二人で来るとは思わなかったようで、自身の無精髭を棚に上げて、「受かると思って来た?」「二人とも、あんまりクリエイティブな仕事をしたことないんだね?」など、甚だ不躾な質問をぶつけて来る。段々気分が悪くなったから、適当に答えてさっさと終わらせておいた。

 結局、木寺だけが受かった。
 小汚さはどちらもいい勝負だったはずなので、あんまりいい気はしなかったけれど、例の無精髭に使われるのはいよいよ面白くないと思ったら、何だか諦めがついた。

「結局、何の仕事だったんだ?」
「お前、知らずに面接行ったのか」
「だってお前が教えなかったろう?」
「それはそうだけれど……」

 木寺の話では、英会話講座の電話勧誘だったらしい。それでは元来受かるはずもないと得心した。

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