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因果

 初めて釣りをしたのは小四の時だった。松岡と福田に連れられて、近くの川へ行ったのである。釣りには前々から興味があったので、約束をして実際に行くまで随分わくわくしたのを覚えている。
 当日、福田の家に集合したら、福田が小麦粉に水と酒を入れて捏ねていた。釣りの前にクッキーでも焼くのかと思ったら、それが餌だというから驚いた。てっきりミミズとかそういうのを針に刺して使うのかと思っていて、それはちょっと触りたくなかったから安心した。

 釣り場は、家と家の間の狭い隙間へ入って、その先の藪を少し歩いて抜けたところにあった。
 練り餌を丸めて針に付け、よぉしとばかりに垂らしてやったら、福田と松岡はじきに釣れ始めたのだけれど、自分には一匹もかからない。
「何でじゃろ?」と問うてみたら、「おもりの位置が、針にくっついとるけぇじゃろ」と福田が云った。
 云われた通りに針と錘を離してみたが、やはり一向かからない。
 そうしている間も、福田と松岡はちょろちょろ釣れる。
 結局そのまま一匹も釣れなかった。

 その後同じメンバーで三四回行ったけれど、やっぱり自分だけが一匹も釣れない。いつも釣れないものだから、福田が段々いじり始めた。
 福田は二人で遊ぶ時には甚だ楽しい奴だが、松岡と三人になると、何かにつけてこちらをいじってくる。どうも彼の中で『松岡と福田>百』という序列が出来上がっているらしい。
 ただでさえ釣れなくてじりじりするのに、見下されては愈々いよいよつまらない。それでもう福田は遊びに誘わないつもりで松岡にそう云ったら、「そうしよう」と即答された。松岡はみんなに好かれる優等生だから、この反応はちょっと意外だった。

 それからは福田の代わりに楠山と三人で行った。
 始めて間もなく、楠山が「百君、ちょっと竿持っとって」と言った。茂みで小用を足したいらしい。
「ええよ」と預かっている間に、何だか小さいのが一匹釣れた。これが自分の初めて釣った魚であった。
「……釣れた」
「おぉ。良かったじゃん」と、楠山がこともなげに言った。
 結局今まで釣れなかったのは、針に付ける餌が大きすぎて魚が食えなかったせいだと分かった。
「餌はこのくらいでええんよ」と、楠山が付けたのを見せてくれた。それまで自分が付けていた分の五分の一ぐらいで、随分小さいから驚いた。
 それからは普通に釣れた。

 満ち足りた心持ちで家に帰って、テレビをつけたらジュリーが『背中まで45分』を歌っていた。その辺りからジュリーをあんまりテレビで見かけなくなったように思う。

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