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半透明の怪

 中学二年の時にポピュラーミュージック(ロック含む)を聴き始めて、それに纏わる雑誌も購読するようになった。
 いつも『GB』という雑誌を買って、隅々まで隈なく読んでいたように思う。
 それである時、読者からの投稿文を読んでいたら、「夏に手や足を布団から出して寝ていると、何だか解らない半透明のものが来て、切り取って行くから注意した方がいい」というようなのがあった。夏の号で怖い話特集をしていたのだろう。シンプルだけれど、随分怖い。
 手足を切られるというだけで怖いのに、切りに来るのが半透明の得体の知れないものなのだから愈々怖い。一体、音楽雑誌を読んで怖くなるようでは話が違う。けれども、読んでしまったものはしようがない。
 その夜から、自分はきっと手足を布団から出さないよう注意しながら寝ることにした。タオルケットなどは油断すると寝ている間に蹴り散らかすから、体に巻いて寝た。
「木乃伊みたいだね」と、ある朝起こしに来た母が言った。全くその通りだと思った。

 それでも日が経つに連れて怖さは薄れ、その内に半透明の事は忘れてしまった。
 そうして高校三年で、そろそろ大学受験という頃になって、何かの話から加茂がこんな事を言い出した。
「俺は寝る時、どんなに暑くても絶対に布団から手足は出さんようにしとる」
「半透明の何かに切り取られるけぇか?」
「……『B-Pass』読んだんか?」
『B-Pass』は、やっぱり音楽雑誌である。
「いや、『GB』じゃろ?」
「いや、『B-Pass』で?」
「……」
「……」
「やっぱり『GB』じゃろ?」
「いや、『B-Pass』で?」
「……」
「……」
「や……」
「B-Pass」
「……」
「……」
 段々、『B-Pass』らしく思われてきた。

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