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桃屋、人生の伏線

 昔、桃屋のCMで、高校球児に扮した三木のり平(のアニメキャラ)が、腰に結びつけたタイヤを泣きながら引きずりながら白米を食って頑張るシーンがあった。
 幼かった自分には、ごはんをもりもり食べるのは理解できても、なんでわざわざ泣きながらタイヤを引きずるのだかわからない。この人はどうしてこんなことをやっているのか、誰かにいじめられているのかと母に訊ねたら、中学か高校のクラブ活動でスポーツをやっている人だと云う。
 それを聞いて、きっとスポーツなんかやるものではないと得心した。
 まだ幼稚園にも行かない前だったと記憶している。

 それから十年後、中学校に上がると果たして籍だけ文化部に置いて、帰宅部員になった。むしろ周りがみんな運動部に入ったことに驚いた。
 おかげで泣きながらタイヤを引きずらされることはなかったけれど、周囲から「あいつは文化部だからうんこだよ」みたいな冷たい扱いを三年間受け続けて、随分嫌な思いをした。
 あんまり嫌だったから、何か派手なことをやって見返したいと思い、高校でバンドを始めた。
 だから自分の音楽活動のきっかけは桃屋のCMである。

「百君は何でバンド始めようと思ったん?」
「ん、桃屋のCMのせいだよ」
「は?」

 ラウドネスとかオジー・オズボーンとかボウイでなく、桃屋のCMでバンドを始めたのはきっと自分ぐらいなのに違いない。
 それで結局見返せたのかは判然しない。全体、誰を見返そうとしていたのかももうわからなくなった。ただ漠然と、「うんこじゃぁないぜ」という悔しさ・憤怒だけが五十を過ぎても残っていて、『ごはんですよ!』を見た時にふっと思い出す。

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