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鳥の声

 今の家に住み始めて十年ほどになる。
 最初は随分鳥の多い所だと感じた。雀のような小鳥ばかりでなく、白鷺も青鷺も雉もいる。
 それから、何だか知らないけれど鷺より少し小さめで嘴が黄色いやつもいる。この鳥を妻と娘はキイバシと呼んでいるから、てっきりそういう名前の鳥だと思っていたが、それは勝手に付けた名前で、本当はケリというのだと、先日たまたまテレビで知った。
 近頃はどうやらこのケリが近くの田圃に巣を作ったようで、つがいでいるのをよく見かける。鳴き声が存外うるさい。

 去年、庭の木に鳥の巣があるのを見付けた。喉の赤い小鳥が出入りしているのだと妻が教えてくれた。
 一メートルほどの低いところだったから、果たしてこんな位置でいいのだろうかと案じたけれど、ケリが地べたに巣を作ることを考えたら、庭の木だって一向問題はないのだろう。
 ふっと気になって覗いてみたら、もうその巣は崩れていた。

 以前、不幸があって急遽実家へ帰った部下に電話をしたら、話している向こうからうぐいすの声が聴こえた。
 鶯の声なんて生で聴いた験しがないから、きっと随分山奥に住んでいるのだろう、山の民だ、と思っていたら、帰省した折に実家の周りでもケキョケキョ鳴いていた。
「いつから鶯の声なんて聴こえるようになった?」と母に訊くと、「鶯? 前からいたでしょ?」と返ってきた。何を今頃、というような調子である。
「前って、いつ?」
「昔からよ」
「聴いた覚えがない」
「そう? でも昔から鶯はいたでしょう。おかしな人だね」
 そんなことを言われたって、断じて聴いていないのだからいけない。


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