![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/143300349/rectangle_large_type_2_3f22d59d0996b055bd65558f47f93cf6.png?width=800)
Photo by
725607
鳥の声
今の家に住み始めて十年ほどになる。
最初は随分鳥の多い所だと感じた。雀のような小鳥ばかりでなく、白鷺も青鷺も雉もいる。
それから、何だか知らないけれど鷺より少し小さめで嘴が黄色いやつもいる。この鳥を妻と娘はキイバシと呼んでいるから、てっきりそういう名前の鳥だと思っていたが、それは勝手に付けた名前で、本当はケリというのだと、先日たまたまテレビで知った。
近頃はどうやらこのケリが近くの田圃に巣を作ったようで、番でいるのをよく見かける。鳴き声が存外うるさい。
去年、庭の木に鳥の巣があるのを見付けた。喉の赤い小鳥が出入りしているのだと妻が教えてくれた。
一メートルほどの低いところだったから、果たしてこんな位置でいいのだろうかと案じたけれど、ケリが地べたに巣を作ることを考えたら、庭の木だって一向問題はないのだろう。
ふっと気になって覗いてみたら、もうその巣は崩れていた。
以前、不幸があって急遽実家へ帰った部下に電話をしたら、話している向こうから鶯の声が聴こえた。
鶯の声なんて生で聴いた験しがないから、きっと随分山奥に住んでいるのだろう、山の民だ、と思っていたら、帰省した折に実家の周りでもケキョケキョ鳴いていた。
「いつから鶯の声なんて聴こえるようになった?」と母に訊くと、「鶯? 前からいたでしょ?」と返ってきた。何を今頃、というような調子である。
「前って、いつ?」
「昔からよ」
「聴いた覚えがない」
「そう? でも昔から鶯はいたでしょう。おかしな人だね」
そんなことを言われたって、断じて聴いていないのだからいけない。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。