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シャープペンシルとブルース・リー

 中学校の正門前に、文房具を売る店があった。文房具を売っているのだから文房具店と云っても良さそうなものだが、古い家の土間で申し訳程度にノートやペンを売っているような按配で、あんまり胸を張って「文房具店」と云うような感じでもなかった。
 それでも正門前にそういう店があるのは大いに便利で、ノートを切らしたり消しゴムが減ったりすると登校時にここで買って行った。
 一度、友達がノートを買うのに付き合って入り、何となくシャープペンシルを買ったのを覚えている。クリアレッドの軸がきれいだったのである。そのペンは随分以前に生産終了していたが、最近になって、後継モデルが今頃発売されたと知った。何だか懐かしい気はするけれど、わざわざ買うほどの縁でもないから放っている。

 あの当時、やっぱり自分にも好きな女子がいた。
 ある時、同じクラスの末永が、「これをあげるよ」とシャープペンシルを差し出して来た。
「なんだい、これは?」
「これはね、○○さんの使っていたものだよ」
 ○○は自分の好きな女子の名前だ。そのペンは、ボタンとペン先はピンクだけれど、軸はグレーのラバーっぽい素材で、中学生の女子が使うには何だか渋いようだった。
「実物だよ」
「なんでそれを君が持ってるんだ?」
「あるルートで入手したのさ。盗んだりしたわけじゃないから安心したまえよ」
「本当かい?」
「本当さ」
 結局もらっておいた。さすがに学校では使いにくいから、塾や、家で宿題をやるのに使っていたけれど、そのうちにどこかへ失くしてしまった。

 昨年帰省した際、母が物置からダンボールを持ってきて、「もういらないものがあったら捨てなさい」と言い出した。
 開けてみたら、中学・高校時代に使っていた文具や小物類であった。あのグレーとピンクのペンがあれば、改めて使うのもまた人生の伏線みたいで面白いと思ったけれど、生憎見当たらなかった。
 代わりにブルース・リーの缶ペンケースを見つけて名古屋に持ち帰ったが、使いにくいので仕舞ったままにしている。

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