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紅茶の味、品のないマダム

 大学時代はよく喫茶店へ行った。一人で喫茶店に入って時間を過ごすのが、何だか大人になったようで嬉しかったのだと思う。
 行きつけの店はいくつかあって、大抵どの店でも紅茶を飲んでいた。珈琲だと1杯で終わってしまうけれど紅茶はポットで提供されて3杯分ぐらいあるから、というような理由で、別段紅茶が好きだったわけじゃない。
 そうして4年間、紅茶ばかり飲んでいたのに、味の違いは未だに渋いか渋くないかぐらいしかわからない。まったく通い甲斐のなかったことだと思う。
 ただ、この喫茶店通いのおかげで、紅茶をストレートで飲む習慣ができた。

 社会人になってから、元町の喫茶店で紅茶を飲んでいたら、近くに座ったマダム二人の会話が耳に入った。

「どうして紅茶にお砂糖なんて入れるのかしらね?」
「そうよねぇ」
「レモンを入れる人もいるのよねぇ」
「あー、知ってる。いるのよねぇ」
「まるでチンピラだものねぇ」
「ほんとにねぇ」

 大学時代の茶店通いがなければ、自分もミルクや砂糖を入れて嘲笑の対象になっていたろう。危ないところだったよ、通っといて良かったよ、と思った。
 しかし、他人が茶に何を入れて飲もうと勝手である。そんなことを聞こえよがしに話し合うのは感心しない。
 きっとあれは碌なマダムではなかったのに違いない。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。