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過去に会う

 ある時、義父母と一緒に『わくわくハウス(仮)』という店で食事をした。
 随分古い店で、何だか少し薄暗かった。客席が数席と、その奥に座敷がある。座敷は二席か三席だったように思う。
 あんまり愛想があるとはいえないおばさんが一人で切り盛りしていて、一品の量がやたら多かった。
 近くに大学があるから、きっと何十年もそこの学生相手にずっとやってきた店だろう。自分の通った大学の近くにもこんな店はあったから、初めて来たのに何だか懐かしい気がした。
 以来、妻子不在の折などに時々一人で行った。注文が立て込むとおばさんの客扱いが幾分雑になるところなどが、いかにも自分の知る「大学前の店」で、自身の青春時代を眺めるような気持ちでニヤニヤしながらトンカツ定食などを食っていた。

 店はそれから1年ほどで廃業した。
「いい店だったのに、残念ですねぇ」と言うと、義父は「そうか?」と、あんまりピンと来てないようだった。
 今は取り壊されて民家になっている。あのおばさんが家族と住んでいるのか、それとも全然関係のない人が住んでいるのか、聞くわけにもいかないから知らない。

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