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手書きの書簡

 職場に届くダイレクトメールで、立派な封筒へ宛名を手書きされたのがたまにある。
 そういうのは開けてみると中身もやっぱり手書きで、DM一つに随分手間を掛けるものだと感心するけれど、肝心の内容は画一的で別段興味も惹かれないから斜めに読んで捨ててしまう。
 もっとも、内容が刺さるかどうかはタイミング次第だから開封させただけでもダイレクトメールとしては合格だろう。

 今の職に就く前は製造派遣・業務請負の営業をやっていた。
 まずはメーカーの担当者にダイレクトメールを送ってから電話でアポイントを申し入れるのだけれど、大抵は「いらん」とガチャ切りされる。
 必要でない営業電話は甚だ鬱陶しいものだから、ぞんざいに扱われるのも無理はない。
 おまけにこの会社ではエリア分けがなく、あちこちの営業所から同じ相手へバラバラにアプローチしていたので、「またあんたらか」と面倒がられるのも当然ではあった。
 それでもあんまり雑に扱われるようではこちらもつまらない。だからダイレクトメールに一工夫してやったら幾分やりやすくなった。

 その会社に3年勤めた後で同業社へ乗り換えた。
 元の会社で何度か売り込みに行っていた柴崎さんに早速ダイレクトメールを送ろうと思ったけれど、普通に送ったってきっと気付かず捨てられる。
 それで封筒の表側に競合社でお世話になっていた百裕である旨を書き添えて出したら、先方から電話がかかってきた。

 これが随分印象に残ったそうで、翌年柴崎さんが独立起業した時に「うちに移らないかね?」と電話をもらった。
 ちょうど現在の勤め先に移った初日だったから丁重にお断りしたが、あちらに行っておけばよかったと今は思う。

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