本棚、朽果てる
母方の家系は広島の山奥で、ずっと庄屋をやってきたのだそうだ。
祖父は市内に移り住んだが、今でも山奥の家はあって、親戚のおじさんが墓守をしながら暮らしている。もっとも、古い家は随分老朽化したので、同じ敷地に別の家を建てて、そちらに住んでいる。
先年墓参りに行った際、古い家へ入らせてもらったら、おじさんが古びた本棚を指して、「裕君、この本棚はねぇ、君のお祖父さんが使っていたものなんよ」と言った。
祖父は自分が小学校を出る直前に亡くなった。殊の外可愛がってもらったから、ここにまだ祖父の痕跡があったと思うと大いに嬉しくなり、この本棚をぜひ欲しいとおじさんに申し出た。
おじさんは「ほうじゃねえ、裕君が持っとくんがええかも知れんねぇ」と承諾してくれた。
この時はバスで来ていたから持って帰れない。次に車で来てもらって行くことに決めた。
ところがそれからコロナ禍などもあって、なかなか行けずにいたら、本棚が雨ざらしになって大分傷んでしまったようだと、母を通して連絡があった。
ずっと古い家の中に置いてあったが、建物の劣化で雨漏りがひどくなったものらしい。
人が持って帰ると云うものを雨ざらしにしておく法はないだろうと思ったけれど、くれと云ったきり取りに行かないこちらも悪い。文句を云える義理ではない。
だから、もらうかどうかはこの次行った時に、現物を見て判断しようと決めた。
それできっと墓へ行くつもりで先年帰省したら、折悪しく大雨で墓所近くの川が決壊した。車両通行止めというニュースも流れてきて、どうやらとても行けそうな様子ではない。
そうしていろんな都合から、次にしよう、今度こそ、と行けないままに延期を続けて数年経過した。
もう随分傷んでしまったことだろうと思う。
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