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無人駅

 二十年ほど前のこと、案件の入札で或る自治体へ行った。随分な山奥で、電車で二時間ぐらいかかったように思う。

 入札自体はほんの20分ほどで終わった。結局落札はできなかったから後は何の用もない。街で五平餅を食って、少し見物もして帰りの電車に乗った。
 再び山の中をごとごと走って、しばらくすると小さな駅で下ろされた。車掌が車内アナウンスで、ここで乗り換えろと云う。
 自分の他に二十人ほどの乗客が下りて、電車はじきに元来た方へ引き返して行った。

 プラットホームが一つあるきりの小さな駅で、ホームの端が改札口になっている。駅員はおらず改札機もない。
 駅から百メートルほどのところにコンビニがあるけれど、他は田んぼと小さな工場があるばかりで、人通りもほとんどない。随分寂しいところだった。既に暗くなりかけていたせいで余計に寂しく見えた。
 次の電車が来るまでまだ少しあったから、コンビニで何か買って来るつもりで駅を出ると、他の乗客も無言でぞろぞろ出てきた。みんな黙ったまま、並んでコンビニへ入った。
 買い物をして駅に戻ったら、人数が半分ぐらいに減っていた。半分はこんな何もない所に住んでいる人たちだったのかと思うと、何だか不思議な気がした。

 コンビニで買ったパン──マロン&マロン──を食っている間に電車が来たからそれに乗って名古屋まで帰った。

 それから三カ月ほどで自分はこの会社を辞めた。
 後になってあの無人駅がどこだったのか気になったけれど、調べてみてもついにわからなかった。そうしてあの会社もいつの間にかなくなっていた。

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