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天井裏

 小学4年生の時分、何をどうしようという話だったかは忘れたけれど父が押入れの点検口から天井裏に上がった。自分は天井裏なんて見たこともなかったから、興味を持って父の後から覗いてみた。

 薄暗い中に柱が何本か見えた。父はそのうちの一本に懐中電灯をぶら下げて、何かの作業をやっていた。何だか、妙に懐かしい気がした。
 随分昔にもこんな光景を見たことがある。あの時は父一人でなく、近所のおじさんやお兄さんたちも集まって、裸電球の下、板床の上で祭りか何かの準備をしていたように思う。
 どこで見た記憶だかわからない。少なくとも、町内の集会所は裸電球ではない。

 ふっと、父が懐中電灯を吊るしている柱に、他にも何か丸い物が掛かっているのに気が付いた。
「お父さん、あれ何?」
「うん? どれだ?」
「その、懐中電灯の上の」
「え、あぁ、あれか。まぁいいよ」
「いいって、何?」
「もう危ないから降りてなさい」
 そう云われて、やはり以前、何かの作業をしに父の代わりに天井裏へ上がった叔父が、板を踏み抜いて落ちたのを思い出した。ちょうど玄関の三和土に落ちたものだから、随分痛かったろう。
 祖母と叔母は大いに心配していたが、自分と従兄弟はゲラゲラ笑って、祖父から「笑うな!」と怒られた。
 あんなふうになっては確かに大変だから、ひとまず降りて部屋へ戻った。

 何日か経った後、やっぱり柱が気になって、父のいない間にもう一度覗いてみた。
 天井裏まで上がらなくても、押入の点検口から覗いてやれば例の柱は見える。そこから懐中電灯で照らしたら、おかめの面が掛かっていた。
 全体どうしてこんなものがそこにあるのだかわからない。
 母に訊いたら「え? そんなのある?」と頼りない。父に訊いたってきっとはぐらかされるに違いない。結局、気にはなったがそれぎりにしておいた。

 作文の時間にそのことを思い出し、『柱のお面』というタイトルで書いて出したら、後で職員室へ呼び出された。
 そして担任から険しい顔で「これは見なかったことにしておいてやるから、明日までに他の内容で書き直して提出するように」と言われた。
 なんだかよくわからないまま、今度は『楽しかった遠足』というタイトルで書いて出しておいた。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。