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回収できない伏線

 数年前、不意に山下久美子の布袋楽曲を聴きたくなり、通りがかりのブックオフで探したら500円コーナーにベストアルバムがあった。見ると『シングル』とか『微笑みのその前で』とか、一連の布袋楽曲が揃っている。
 こんなに都合よく見つかるとは思っておらず、感心しながら購入した。

 高校時代にバンドでコピーしたから、どの曲も随分懐かしい。ところが聴いているうちに、だんだん気分がどんよりしてきた。
 自分の高校時代の記憶は恥ずかしいものが大半で、たまさかそうでないのがあっても、辿ればきっと黒歴史に繋がっている。
 バンドについても同様で、上手い下手の問題だけでなく、ステージ衣装や立ち居振る舞いなど、あらゆる恥ずかしい記憶が芋づる式に浮かんでくる。
 あんまりどんよりするものだから、改めてバンドのリベンジをしようと決めた。そうすれば恥ずかしい記憶も今につながる伏線として片付けられるに違いない。

 リベンジと云っても高校時代のメンバーはみな音信不通で、どうしているかわからない。それで大学時代の友人らを誘うことにした。
 ちょうどその時分には年の暮れに大学の音楽サークルのOBライブがあったから、それへ出る心づもりだったのである。

 早速目星をつけたメンバーに声をかけ始めて、ボーカルとキーボードがあっさり決まったが、そこからがどうも上手くない。

「君、次のOBライブで山下久美子のコピーバンドをやるからドラムを叩いてくれたまえ」
「百さん、ちょっと待ってください。あのOBライブは後輩らがやってくれてるもので、本来だったら僕らがやらないといけない立場なのに、そこに乗っかって、あまつさえ……」
「うん、わかった」

 何だか難しく考えるやつだとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。それで次の候補に連絡したら、こちらはのらりくらりと逃げる。どうも音楽性の問題らしい。
 ドラマー候補はその二人だけだったから、これで行き詰まった。

 他に連絡のつく者を探したけれど、そうしているうちにコロナ騒動が始まって、OBライブが無くなった。これではとてもバンドどころではない。
 結局このバンドは実現できず、自分の高校時代は相変わらず黒歴史のままである。

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