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ジュリーとカップラーメン

 十年ばかり前、同僚と出張に行って居酒屋で晩飯を食った。
 そうして一頻り飲み食いして、店を出たら隣のショットバーに「今夜はジュリーナイト!」と貼り紙されている。来た時には気付かなかったので、自分らが食事している間に貼られたものかも知れない。
 ジュリーは幼稚園の時から好きで、3枚組のベストアルバム(シングル・コレクション)も持っている。大いに興味を惹かれたから、「じゃぁ、また明日」と同僚をあしらって、一人でそっちの店へ入ってみた。

 店内では『酒場でDABADA』が流れていた。どうやら、ジュリーの楽曲を聴きながら酒を飲む趣向らしい。
 自分はカウンター席に座って、バーボンのロックをそう云った。
 カウンターの向こうにいるマスターは何だか小山田圭吾に似ているようだったが、前の店でもう随分酔っていたから、本当にそうだったかは判然しない。
「ジュリーナイトに惹かれて来ましたよ」と言うと、小山田は「ありがとうございます。いいですよね」とボソリと言う。「いいですよね」の割に反応が薄い。こういう場合にファンがきっと見せるはずの「あなたもですか!」という熱さがない。どうやら当人は別段ファンではないらしい。
「……常連さんで、好きな人がいるんですよ。僕はそんなに詳しいわけじゃないんですが」
 小山田は、果たして付け足すようにそう言って、自分の隣の男性二人連れをチラリと見た。
 その二人は、先刻からジュリーについて熱く語り合っている。
「すみません」と声をかけてみた。
「はい?」
「話に入れてもらってもいいですか? 幼稚園の時からジュリー好きなんですよ」
「おぉ!」と一人が熱く反応した。
 好きな曲は何かと訊いたら、その人は『君を乗せて』が好きだと云った。随分渋いチョイスである。
 もう一人の方は、何だか適当にはぐらかした。どうやらせっかくのジュリーナイトも、ファンは自分と『君を乗せて』氏だけらしかった。
 しばらく二人で語り合い、『恋のバッドチューニング』を一緒に歌って別れた。
 またいつか会いましょうと云いあったけれど、連絡先は交換していない。顔も忘れてしまった。
 それから宿に戻って、カップラーメンを食った。

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