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通夜、猫の声

 祖父は二人とも自分が小学生の間に亡くなった。
 どちらも通夜と葬儀は自宅でやった。通夜の際には親類縁者が自宅へやって来たし、葬儀の時には近所の人たちも参列してくれた。
 母方の祖父は教師をしていたから、教え子だった人たちが通夜に来て「先生!」と棺に縋りつきながら泣いたのを覚えている。中には終戦直後に家で面倒を見ていたという人もいた。母と叔母はその人を「お姉さん」と呼んで、再会に何とも云えない顔をしていた。

 祖母はどちらも自分が大人になってから亡くなった。通夜も葬儀も外でやったから、二人とも家に帰らないまま荼毘に付されてしまった。何だか気の毒だった気がする。

 先年、義父が亡くなった時は通夜・葬儀を妻の実家でやり、家族だけで見送った。これは妻の強い希望によるもので、あれで良かったと自分も思う。
 通夜には故人の好物だったうなぎをお供えし、傍らで自分らもいただいた。
 食事の後で風呂に入るよう娘に云ったら、外から猫の声が聞こえるから気持ち悪いと嫌がった。確かに、先刻から猫の声が聞こえている。
 それを聞いていると、どういうわけかネクタイ姿の知らないおじさんが猫の声を出しながら家の周りを歩いているような気がしてきた。随分気持ち悪いと思ったけれど、通夜に云うようなことでもないから黙っておいた。

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