マガジンのカバー画像

百卑呂シ言行録

306
日常を切り出して再構築したもの。
運営しているクリエイター

#エッセイ

土手道、教師、疾走(2024/05/18)

 土手道を歩いて眼科へ行った。本当は先週行くはずだったけれど、体調を崩して行けなかった。  今回は娘と二人で歩いた。学校の検査で随分視力が落ちたので、新しい眼鏡の処方箋をもらうのである。  眼科まで歩くと三十分かかる。自転車で行くとか云い出すかと思ったが、別段反発せずについて来た。自転車は、屋根のない駐車スペースにカバーを掛けて置いているものだから、一度出すと仕舞うのが面倒でいけない。  土手道を歩きながら「昔、金八先生がこういう道を歩いてたんだよ」と教えてやった。 「何そ

土手を歩いて眼科へ行った(2024/03/02)

 網膜剥離の経過観察のため、土手を歩いて眼科へ行った。天気が良いから歩いていても気分が良い。  眼科はいつも混んでいるが、今日は存外空いていた。これなら早く終わるかも知らんと思いながらゆったり座って待っていたら、受付から「飛蚊症が急に増えたんです」と聞こえてきた。  どうやら同年代の女性である。きっと自分と同じことになっているのだろう。不安げな様子を見て、何だか急に、一段上に立ったような心持ちになった。  その人が隣に座ったから「同じですよ」と言いたくなったけれど、「え、そ

カーディガン、ひょっとこ野郎(2024/02/26)

 いつも職場で着ているカーディガンの肘が破れた。  もうじき暖かくなる時期に新しく買うのは何だか面白くない。破れた所を縫ってごまかしたが、生地が薄くなっていて直ぐにまた破れる。都合2回繰り返して見切りをつけた。  代わりにセーターがあったのを着ることにしたけれど、割と良いセーターで、仕事で着るのはどうも勿体ない。それで今日はワイシャツだけで出勤したら、随分寒くて辟易した。  シルバー雇用の園田さんは、いつも黄色いカーディガンを着ていた。  ある時園田さんがデスクへ来て、自社

溺れる子供(2024/02/24)

 午前中に眼科へ行った。随分混んでおりまた遅くなるかと思ったが、経過は幸い順調で、写真を撮るだけで昼前には終わった。  昼間に少しうさぎと遊び、その間はぽかぽかしていたのだけれど、夕方になると段々寒くなったから、久し振りにスーパー銭湯へ行くことにした。このところ、休みの日は夜まで家で仕事をしているか安静にしているかだったから、久しく銭湯へも行っていなかったのである。  銭湯は存外混んでいた。  ジェットバスに浸かってから露天岩風呂に入り、外の壺風呂でのんびりするのがいつもの

夜、庄司君、狐(2024/02/19)

 パスタ屋店員だった社会人一年目に、冬のボーナスでゲーム機を買った。  それで格闘ゲームをやり出したら随分はまり、終わるタイミングが掴めないままとうとう徹夜をした。  ちょっと不安だったけれど、大学時代には徹夜で遊んでいたのだから仕事だって何とかなるに違いないと思ってそのまま出勤しておいた。  その頃のポジショニングは、自分が料理を作ってバイトの庄司君が麺と和えて盛り付けるようになっていた。  自分としては、庄司君はバイトといってもベテランで大いに頼りになるやつだからきっと大

ロック縛りの眼科(2024/02/14)

 眼科の待合室で、席が空いても立っている女性がいた。  年は恐らく自分と同じぐらいで、黒いトレーナーを着ている。トレーナーの胸に皺の寄ったような書体でROCKと書いてあり、そう思って見たらロック好きな人のようにも見えた。  全体、席が空いても座らないなんていかにもロックっぽい。自分も昔は電車の中でそうしていた。  この人はやっぱりSHOW-YAとか聴いてたんだろうかと思ったが、ロック女子だからといって女性バンドのファンとは限らない。  SHOW-YAは自分が高校から大学へ上

関節を決めながら(2024/02/10)

 目の奥を焼いた後を診てもらいに眼科へ行くと、どうも厄介な方向へ進展していた。それで再度同じ手術をして、連休明けにまた診察を受けることになった。  前回よりも施術時間が長く、少しくつらかった。これでも駄目なら連休明けに外科手術なのだそうだ。  外科手術となるとちょっと怖いし、noteの毎日更新どころではなくなる。今回ので片付くよう連休中は安静にしていることにした。  帰宅後は妻が敷いてくれた布団に入り、終日寝た。  寝ている間に、セイブというプロレスラーの引退試合に立ち会う

ビッグマシン(2024/02/08)

 このところ取扱商品の改廃が多いものだから、得意先から注文を受けても既に完売していてお詫びしなければならないケースが時折ある。  ふっと気になって、完売品に注文が来てないかと出荷担当のオーウェン氏に訊いたら、何食わぬ様子で「来てます。ビッグマシンです」と言った。  注文があったのはわかったが、ビッグマシンがわからない。そんな商品は扱っていない。全体この人はこういうところがある。自身の中で変な用語を作って勝手に完結する。  ビッグマシンとはどういう意味かと問い質したら、今度はう

目を焼く人(2024/02/07)

 飛蚊症は幼い頃からあったけれど、一昨日から急にひどくなった。何だかふわふわしたゴミみたいなものが左目の前を漂っている。多分、壊れかけのロボットの視界はこんな感じだろうと思っていたら、今日になって全てが霞んで見えてきた。  これはさすがにタダゴトではないので仕事を休んで眼科に行ったら、網膜剥離の一歩手前とかいう話で、やっぱりタダゴトではない。  網膜剥離なんて、ボクサーがやるものだと思っていたから随分意外な気がした。何しろ殴り合いなんて中学校以来やっていない。一体何が原因で

負荷、時の流れ(2024/01/31)

 上司のネルソン氏に同行してもらい、面倒くさい得意先へ面倒くさい件の話をしに行った。  ここは何が面倒くさいと云って、こちらのできないことをいつまでも要望してくるからいけない。  代わりにこういうのはどうですかと別案をいくつか提示してきたけれど、その都度いやそれではダメですよ、やっぱり元の通りでないといけない、と元の話に戻そうとする。全体、できないと云っているのだからできないものだと理解すればいいのに、変に勘繰っているのか頭が悪いのか、いつまでも元の話に固執する。実に面倒極ま

人の縁(2024/01/16)

 学生時代の日記帳を読み返していたら、33年前の今日は木寺と友達になった日だとわかった。それで当人にLINEで教えてやった。 「日記を書いてたのか」 「書いてたさ。今ではなかなかの猛毒文書に成り果てたよ」 「まぁ、それはそういうものだろう」 「あんまり毒性が強いものだから、取捨しながらデジタルに転記して原本は神社でお焚き上げしてもらおうと思っているのさ」 「ブツとしても持っておいたらいいだろう? そのうち毒性も薄れるさ」 「俺が生きてるうちには薄れそうにないぜ?」  何だか、

ルイヴィトン、羊羹(2024/01/15)

 朝から会議で気分がどんよりして、午後からも何だかややこしい話が目白押しで随分疲れた。  あんまり疲れたから帰りに何だか甘いものでも食って行こうと思ったら、財布がないことに気が付いた。どうも家に忘れて来たらしい。  財布がないでは仕方がない。加山君に100円を借してくれないかと相談したら、加山君はお安い御用ですよとルイヴィトンの財布から100円を出してきた。自分はありがとうと受け取った。  大学時代、区役所へ歩いて行く途中で『留美豚』という中華料理店を見つけた。 「るみぶた

浄化された過去(2023/12/24)

 正午過ぎに娘の塾が終わるから、頃合いを見て車で迎えに行った。  あの塾の駐車場は面している道が狭くて、他の車が停まっていると随分入れにくい。それで少し早めに行った。  幸いまだ誰もいなかったから、一番停めやすい場所に入って待機していると、じきに右隣へ一台入った。大きな車だったけれど、難なく入ってやっぱり待機している。  続いてもう一台、輸入車の大きいのがやって来て左隣へ入ろうとし始めた。  左隣は駐車場の端で、ガードレールがあるから停めにくい。こんな大きな車では尚更難しいに

失望と驚愕(2023/12/21)

 先日、総務のフグ田さんがメールで、嫌いな食べ物を問い合わせてきた。  こちらは妻子のある身だし、弁当などを作ってこられても困るなぁと思ったら、某日に会社が弁当を出すからみんなに訊いているのだと云う。それでひとまず安心した。  ゲテモノ以外は大概食えるけれど、納豆はできるだけ食いたくないと答えておいたら、「それなら大丈夫です」と返ってきた。  それにしても会社が弁当をくれるとは突然だ。日頃のコミュニケーション不足を改善するために昼食会でもやるのかと訊いたら、違う、ただ弁当を